086
――一年前のあの日、あたしは走っていた。
それは暗い夜の町、だけど街並みが日本ではない。
ヨーロッパの街並みのような、西洋風の住宅が立ち並ぶ。
静かな街をあたしは、二人で走っていた。
セーラー服でポニーテールに髪を縛ったあたしと、前にはミドルヘアーのセーラー服の少女。
彼女は 綴 緑子、あたしの親友だ。
「霞っ!こっちに逃げよう」
緑子が、私を誘導した。
彼女の手を引かれて、石畳の道を走っていた。
「光は見えるから、あそこを目指せば……」
「そうね。坂の上を目指しましょ」
「うん」あたしたちが行く先は坂の上にあった。
建物に明かりはないが、坂の上だけは光っていた。
「だけど……あたしたちは閉じ込められたのよ」
「諦めないで、カスミン。
絶対に出られるわよ、ゲームの中に閉じ込められるなんてありえないから」
「そうだね、うん」
緑子は笑顔で励ましてきた。
あたしたちは、『タマゴアイドル』というゲームで閉じ込められた。
きっかけは、あたしが読み込ませたカード。
ミーコの名刺も読み込ませた瞬間、あたしとミーコがこの世界にワープしていた。
人の住んでいない闇の街の世界。
そこであたしたちは、彷徨っていた。
「ほら、あそこに光があるでしょ」
唯一の光を目印に、坂を一気に駆け上がった。
そこは、街の中でも小高い丘。大きな木が立っていた。
やがて、そこに近づくと木の下が光っているのが見えた。
「あれって……出口じゃない?」
「うん、そうだね」
走りながら、あたしたちは走って木に近づく。
「あっ、だけどてんてn待って!」
前で手を引くミーコが、突然立ち止まった。
「どうした……」
「の」とあたしが言おうとした刹那、ミーコは突然掴んでいた手を離した。
「えっ!ミーコ?」
「逃げてっ!」
ミーコに手を離されて、あたしは思わず後ろに下がった。
次の瞬間だった、ミーコの足元から黒い何かで彼女が覆われたのだ。
ミーコの姿が、黒い何かで見えなくなった。
それはまるで煙……いやコウモリの群れのようだ。
「ええっ!」
「前を向いて、カスミンっ!」
「でも……」あたしは、一瞬のことで驚くしかなかった。
「ここから前に……」黒いコウモリに囲まれても、彼女の声が聞こえた。
「ミーコっ!」
「前に行って!」彼女の悲痛な叫びに、あたしは「はいっ」と頷くしかない。
そしてあたしは、前を向いた。
前には、大きな木が一本たっていた。
立っていた木の、真ん中が大きな空洞が空いていた。
そこがずっと光っていたのだ。あたしはミーコに背中を押されて気の前に立っていた。
「ミーコ……ここから」
「もう……」
黒いコウモリに覆われたミーコから、声が聞こえなくなった。
「ミーコ!」
あたしは叫びながら、光の中に飛び込んだ。




