008
僕の視界が、明るくなった。
見えたのは、スーパーだ。
髪が長く、色白で目が大きい女の子だ。
だけど、風を感じた。それは、初夏のジメジメとした湿気を含んだ風。
ゲームの中では、風も、人の気配も、温度も感じなかったのにはっきりと肌で感じられたのだ。
次に、着ている服を見た。
ピンクのブレザーだ。
青のスカートに、黒のソックス。さっきと全く同じ。
リアルなのに髪が伸びていて、いつものショートカットと違う。
「あれ、なんか髪が伸びているけど」
「さっきのタマゴ王国と同じ姿だからな」
「その前に声が、胸のあたりから……」
「朕はここにいるからな」
胸には、紐で吊るされたカードが首にぶら下がっていた。
そのカードは、キラキラしているカード。
カードにはボクのアバターがいて、そこから何故か声も聞こえた。
すぐ近くに、スーパーのガラスがあったので顔を見てみた。
やはり、アバターとほぼ一緒の顔だ。可愛らしい少女のままだ。
「変身が解けていない?」
「そう、これがこのゲームの最大の特徴『トランスモード』だ」
「へえ、すごいね」
自分の頬をつねるが、やっぱり痛い。
夢じゃない、現実にボクはアバターと体が入れ替わった。
「戻るときは?」
「朕を使うといい、そこにある筐体でゲームの中に入るのだ。
カードの下に、バーコードがついているだろう」
「やっぱり一回百円?」
「無論、金は取るぞ」
「ちぇっ、でもいいか」僕はスーパーの中で踊りだした。
周りには人がほとんどいない、静かなスーパー。
ボクの心は浮き上がり、足取りがとても軽い。
「本当にボクは変われたんだ」
「そうだ、これなら……」
「でも、ボクってみんなわかるだろうか?」
「わかるさ、声は全く同じだから。
そうそう、大事なことをひとつ言い忘れた。
この服を脱がすことはできない。もちろんほかの服を、着ることもできないから」
「え?」ボクはきょとんとしていた。
「衣装は君の心だ。心をはぐことはできないだろ」
なぜか、カードからイースターのクサイ台詞が聞こえてきた。
「まあ、しかし気をつけないといけないものもある」
「気をつける?」
「敵がいるやもしれぬのだ」
イースターは最後に、不思議な言葉を言ってきた。