056
――私は好きな人がいる。
その人の事を考えると、私はすべての集中を失う。
これが、本物の恋だ。
私の心を奪う王子は、あの人が愛おしい。
私は『宇野中 撫子』、宇野中グループの令嬢として育ってきた。
生まれは名古屋、大きな屋敷で生まれた。
重化学工業にに、ショッピングセンター、携帯電話の会社や、ファミレス等を傘下に持つ東海地区屈指のグループ企業。だけど末っ子の私は、本社のある名古屋から三重の家に預けられた。
言ってしまえば、私は家督争いで弾かれた。
そんな私が通っているのは、普通の高校。
『采女第三高校』という四日市にある公立の高校。
通った理由は、単なる家督の問題だ。
私のことを家督争いに参加させないために、私はあえて普通の学校に通わせたのだ。
遠ざけられた私は家督を争う兄弟をよそ目に、あえて全く関係ない三重のこの学校に通っていた。
だけどそれが良かったのかもしれない。
私は、二学期に一人の男性と運命的な出会いをした。
最初の出会いは、一年の秋の体育祭。
私はそこで怪我をしてしまう。怪我をした時に、保健室に彼がいた。
彼は保健委員だ、だけど体育祭の保健室には保険の先生が常にいない。
彼が保険の先生の代わりに、私の看病にあたってくれた。
二回目の出会いは、一年の冬の終業式。
私は方向音痴で学校の中を迷っていた。
迷っていた私が、そこで彼に再び出会った。
彼に助けられて、私は終業式の体育館にたどり着けた。
三回目の出会いは、元日だ。
元日の初詣は、グループ総出で熱田神宮に行くのが宇野中家の決まりごと。
だけど、今年の元旦は父と母が海外ということで、初詣に家族が集まらなかった。
四日市に残っていた私は、近所の神社の初詣に向かう。
出かけた神社で、私は偶然にも彼に出会った。
そして、彼から写真を求められたのだ。
三度の出会いで、私は彼と少し話すことが出来た。
一年生も終わりに差しかかった一月のある日、私の登校の日。
セーラー服に黒く長い髪、私は後ろの座席でいつもどおり姿勢良く座っていた。
それから一ヶ月後、バレンタイン。
私は初めて、チョコレートを作った。
それは、彼のために作ったチョコレート。
私は、バレンタインの日に渡した。彼は受け取ってくれた。
これで、私は彼との恋が始まる。そう思っていた。
だけど三月のホワイトデーにはお返しはなかった。
それから二ヶ月後、私は二年生に、彼は三年生になった。
彼との距離は、相変わらず微妙なままだ。
四月の桜が散り始める桜道。この日は、晴れていた。
始業式も終えて、私はいつもどおり車で家に帰るところだ。
セーラー服姿で、私は車の窓から外を眺めていた。
「撫子お嬢様、家に帰れば空手の時間です。
更には夜六時から、学習塾になっています」
運転手が、前から声をかけてきた。
「わかりました」
いつものことだ、私は自分の予定を理解していた。
そんな時、私は車の窓からあるものが見えた。
「雷?」見えたのは雷。
だけど空は晴れ渡っていて、雨雲が見えない。
「どうかされましたか?」前の運転手が聞いてきた。
「いえ、少し止めてもらえますか?」
私がそう言うと、車がその場で止まった。
その場所はたまたま神社だった。
だけどその神社は、人の気配がない寂れた神社だ。
「お嬢様?」運転手が不安そうに顔を覗かせた。
「ちょっと行ってきます」
私は目についた、あの雷が気になって車を飛び出した。
廃神社に続く急勾配で、高い階段を登っていく。
私は一直線に、少し崩れた神社の階段を登っていく。
足場がかなり悪く、石の階段が崩れていた。
それでも私は走って登っていた。
そのまま、ようやく頂上にたどり着いた。
たどり着いた頂上を見て、私は驚いていた。
「女の子?」そこにいたのはひとりの女。
頭にヘッドドレスをつけた女は、裸で大きなタマゴを抱いていた。




