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私は多忙だ、多忙だから恵の授業を聞く時間が短い。
五時を過ぎると、終わりにしないといけない。
六時からのバイトが、私にはあった。
玄関で、私は恵と一緒にいた。
上履きから靴に履き替える。
クラスが違うので、先に履き替えた私が恵のところにいた。
「今日はありがとうです、恵」
「うーん、でも……時間足りないね」
「ですね」私は持っていた通学カバンを、じっと見ていた。
「明日と明後日もバイトだっけ?」
「です、日曜は外してもらえたのですが代わりに土曜日に入りました」
「じゃあ、日曜に一緒に勉強しない?」
「えっ、でも恵は勉強しなくていいのですか?」
私は驚きがあった。
なぜそこまで親切にしてくれるのかわからない。
だけど、恵は本当にいい子なのだと思えた。
「うん、大丈夫。ボクは時間あるし、それに勉強を教えても勉強になるし」
「そうなの?」
「まあ、三年じゃないからね。慌てることもないよ。
場所は四日市の図書館でいい?あそこは静かだし」
「ありがとうです、ありがとうです」
私は感謝のあまりに、恵の手を両手で掴んだ。
その優しさが、単純に嬉しかった。
「いや、そんなに感謝されると……ボク困るよ」
「いいえ、感謝感激です」
自然と私は涙を流して、恵の好意を感謝した。
「まあ……いいよ。シエル、ちょっと恥ずかしいから」
「いいえ、離さないのです」
「あの……カーネーション会長」
「シエルは感謝しています。恵、ありがとうです」
「えと……ボクじゃないし。シエルこっち見て」
そういいながら、恵は玄関の手前の廊下側を見ていた。
恵に促されて、私も見るとそこには一人の少女が立っていた。
「お久しぶりです」
そこには黒く長い髪の少女が、セーラー服姿で微笑んでいた。




