005
~~タマゴ系アイドル候補生の学校~~
それは、全く見覚えのない木造の教室だった。
この教室には、誰もいない。
夜の学校が出ていて、机が明らかに古ぼけていた。
この学校の雰囲気はない。というよりボク自体が幽霊のように緑色のタマゴになっていた。
学校自体が、絵の背景の中に紛れたような気がした。
その中に出てきたのは、青と黄色の斑点模様のタマゴ。
「ようこそ、タマゴアイドルの世界『タマゴ王国』へ」
「はい?もしかして、イースター?」見慣れないタマゴだけど、声でなんとなくわかった。
「イースターではない。朕にはちゃんと……まあこの問答はいらぬだろう。
ここは、夢と希望……にかつて満ち溢れていた『タマゴ王国』。
お主はこの世界に呼ばれたのだ」
「どういう意味?まさかゲームの中?」
「それはちと違う。が、ニュアンスとしてはそう考えるのがてっとり早いだろう」
「へえ、だけど幽霊みたい。実態がないっていうか」
「それもそうじゃ、まだやることがあるからな。
まずは、お主にはアバターを作ってもらうぞ。この世界で動くために必要なものだ。
イースターが言うと、ボクの前に画面のようなものが出てきた。
「これは?」
「タッチして、自分の好きな顔を作るのじゃ。
髪型から顔の輪郭や顔のパーツ、目の色に肌の色と髪の色。これらを細かく決める」
「うん」画面をスライドすると、スマホ画面みたいに動く。
『タマゴアイドル』略して『タマドル』では、キャラメイクで顔と髪型の種類を見て頷く。
今時のゲームでは、アバターを作るのは珍しくもない。
髪型をロングにして、輪郭は細め、そしてパーツは可愛くしよっ。
いつもどおりSNSのアバターと同じかわいい系の顔だなぁ。
そんなボクはひとつの疑問があった。
「でも、あまり顔の種類少なくない?なんか金髪がないから」
「ふっふっふ」
「何を笑っているタマゴ?」
「はあ、タマゴではない。朕は……」
「君はこのゲームの中だと、サポートキャラなんでしょ。イースター」
「う」イースターの顔が引きつった。
「まあ、その金髪はアイドルランクが足りないからだ」
「ええっ、なにそれ?」
「アイドルは、ライブをすることでランクを上げることができるのだよ。
最初は見習いだけどランクを上げることで、最後はタマゴ系アイドルになれるのだよ」
「タマゴ系アイドルかぁ」
やはりその単語は、ちょっと想像できない。
こういうところは、子供っぽいゲームだと思えてしまう。
「顔はだいたいできたか?」
「うん、ボクとちがってロングヘアーにした。肌は色白」
「ほほう、だいぶ違うではないか」
「じゃあ次は名前をきめよう。なにかないか?」
「うーん、名前ねぇ。これって漢字は使えないんだ」
名前を入れてみて、漢字が使えないから本名はダメらしい。
「じゃあ、あだ名っぽいのでいい?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、詰草 恵だから『メグッポ』と」
いつも言われているあだ名を、安易に登録をした。
「完成だね」
完成画面が、ボクの前に出てきた。
見た目は中学生ぐらい。元気でかわいい女の子ってところだ。
うん、見た目通りの女の子でかわいい系だ。ちょっと背が低いのが気にいなるが。
完成ボタンを押すと、ボクの体がその女の子の体に変わった。
髪が長くて、目が大きくて、童顔。
着ている服が、赤いジャージだが。
「でも、少し小さくない?」
「設定は14歳だから」
「ほほぅ、中学生か」
「さて、アバターを作ったことだし……次はガチャをしようか」
「ガチャ?」その言葉を聞いて、小学生に引いたガチャガチャを思い出す。
「それって作り物のキンギョとか、電話番号とか入っている奴?」
「なんだそれは?」
「近所の駄菓子屋にあったお店のガチャガチャにね、電話番号が入っているガチャがあって……
そこに電話をかけると、女の子と話が……」
「ちょっとまて、そんなものは入っていないのじゃ」
イースターが困った顔を見せていた。
だけど青と黄色の斑点で、目がどこにあるかわかりづらい。それぐらい小さい。
「じゃあ、何が入っているの?」
「可愛い衣装が入っているぞ」
「ほんと?」
「ああ、ガチャは四種類ある。どれを選ぶ?」
「『ファストフローラル』に『ブルーストリート』、『プラチナスター』と『グミキャンディ』。
四種類あるけど、これって何?」
「これはブランド名だ。説明が書いてあるだろ」
「ほんとだ。えと、かわいい系の『ファストフローラル』。
クール系の『ブルーストリート』か……もちろん、『ファストフローラル』」
目の前に出てくる『ファストフローラル』を、迷わずタッチした。
「あとはレバーを引くがいい」
ボクの前には、ガチャガチャのレバーらしきものが出てきた。
それを回してみる。すると、画面が切り替わった。
目の前に出てきたのが『スクールブレザー:トップス』、『プリーツスカート:ボトムス』、『スクールソックス:ブーツ』と三つが目の前に現れた。
「これは?」
「ふむ、ノーマル衣装のスクールコーデ三種だな。
衣装はこれしかないから、とりあえず着替えよう。
ボタンを押して、自分のアバター……その衣装を自分に着させるのだ」
「カードっぽいのを重ねるんだね」
「そうだ」
すると、ボクの服がジャージからあっという間に変わった。
ピンクのブレザーを着て、青い無地のスカート。
黒いソックスを履いて、茶色の靴。ブレザーには青いネクタイが見えた。
「わー、この制服可愛い」
「どうだ、これが新しいお主の姿だ」
「うん、超かわいいよ」
ボクは体を見回して、自分の姿を確認した。
教室の窓から見える自分の顔は、ものすごくかわいい。
子供のかわいらしさと、少女らしいかわいらしさを両方かけあわせた美少女だ。
「じゃあ今度は、撮影しようか」イースターがなぜかカメラを持っていた。
「撮影?」
「ああ。このまま、お主を撮影する。好きなようにポーズを取るのじゃ」
「うん」ボクは体を動かしていた。
「隣の画面に、自分の映っている画面が見えた。それで朕を指示するのだ」
右足を前に出して、両手で膝を抑えて顔を前に出す。
隣にある画面は、カメラから見えるボクの姿がファインダー越しに見えた。
かなりハイテクな設備だね。その画面を見ながら、指示を出す。
「じゃあ、ちょっと下がって」
前にはイースターがカメラを持って構えていた。
ボクの一言で、後ろにイースターが下がっていく。
「良いか、撮影?」
「うん」イースターが、最後にカメラのシャッターを押していた。