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~~カフェ『MENEMEN』~~
ここは、小さなカフェだ。
といっても背景で、人の姿が全くない。
『デビルド大通り』という大通りに面しているこじゃれたカフェだ。
これはもちろん『タマゴアイドル』というゲームの中の世界。
私がこのゲームの中に入れるようになったのは、五月だ。
五月のある日、私は河川敷で大きなタマゴと出会った。
そのタマゴは、目の前にいる赤と紫の斑点模様のタマゴ。
手足が小さく伸びていて、つぶらな目と口がある『イースター』という名のタマゴだ。
「ようこそ、タマゴ王国へ」
イースターは、小さな卵の体を前に倒す。
一応日本版で言うところの、お辞儀をしているのだろうか。
「イースター、久しぶりっ」
私は大きなツインテールの少女になっていた。
黒髪の大きなツインテールに、真っ黒な瞳。背も低くて小さくて子供っぽい。
少し肌の色も、日本人に近づけてか黄土色だ。
着ている服は、白いブラウスに黄緑色のミニスカート。
茶色のブーツに透明な羽が、妖精っぽい衣装。
このコーデは『フェアリードレスコーデ』、『グミキャンディ』のレア度Cだ。
なんといっても、透明な羽が私のお気に入りだ。
ここに来ると、私は『シエル』という『タマゴアイドル』になるのだ。
「ふむ、『シエル』か」
「まあまあ、それよりシエルのランクは?」
「現在『地方アイドル』じゃ。あと、3000グットでBランクの『メジャーアイドル』じゃな」
「3000グット?すごい時間かかるんですけど」
私は不満そうな顔を見せていた。
「まだBランクは楽じゃが、Aランクになるともっと上がるのがきついぞ。
ソロでは、そろそろ限界を迎える頃じゃ」
「アイドルユニットを組むの?」
「そう。アイドルユニットは、ほかの人の『タマドル名刺』でユニットを作れる。
『みんなヘンシン、みんなトモダチ』それがタマゴアイドルを目指す、基本スタイルだ」
「なにそれ?」
「忘れたのか、これだから困るのぅ。
いいか、自分のコーディネートが完成するたびに、フォトを撮る話はしたよな」
「うん」
「コーディネートが完成すると、タマドルカードが更新されて新しい五枚のカードも出てくる。
それがタマドル名刺だ。その名刺は自分で使うことはできないが、他人が使うことができる」
「それじゃあ、そのカードは意味ないよね」
「いや、意味はある。
自分は使えなくとも他の人が使えるから、友達とタマドル名刺を交換すればいい。
自分のユニットに、友達のアイドルが使える。
友達のアイドルとユニットを組めば……グッドをより稼ぎやすくなる」
「そんなシステムあっても……このゲームをやっている人は、見たことないけど。
それに、シエルたちと同じようなイースターつきのタマドル名刺じゃないと使えないんでしょ」
「そういうことになる。なにせ朕らは選ばれしタマゴなのだ?」
「ふーん、日本のタマゴのエリートなのですね」
「違うっ、タマゴ王国の卵だ」
「日本のタマゴ王国ですね」
私の言葉に、イースターはピョンピョン飛び跳ねて怒りを見せていた。
「おほん、とにかく友達を探すことが目的になるが……」
「そのうち、見つかるでしょう。気長に待つしかないですね。
日本のことわざでこんなのがあります。タマゴの上にも三週間」
「は?」イースターが困った顔を見せていた。
微妙な空気が流れたところで、イースターが最後に一言告げていた。
「そういえば、ガチャは引くのか?」と。




