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『6月5日』
あれから一年と二ヶ月が過ぎた。
私の名は『シエル カーネーション』。
二年になった私は、采女第三高校の生徒会長をしていた。
生徒会長になった経緯?誰も立候補しないから、シエルだけが立候補した。
当然、シエルがそのまま生徒会長になった。
学校始まっての外国人生徒会長って、言われたなぁ。
六月始まって最初の日曜は曇りだ。
この日は、週末の文化祭に備えて買い物に出かけていた。
ピンクのワンピースは、ブロンズのポニーテールに映えた。髪が伸びで縛っていた。
私が出かけていたのが、『ドンペンホーム』。
このあたりでは珍しい、二十四時間のディスカウントスーパーだ。
オランダではありえない店。
私が、家がよく近いこともあってあの男と一緒だ。
「聞いたぞ、会長」
「何がですか?」
「クラスの文化祭の出し物、メイド喫茶だよな」
「そうですよ」
「俺もそっち行きたかったぜ」
彼の名は『長太 虎太郎』、クラスメイトの男子だ。
だけど、彼とは男女との関係はない。むしろ師弟関係だ。
私にいろんなものを教えてくれる虎太郎は、私の日本の師匠だ。
前にいる虎太郎が、悔しそうな顔を見せていた。
「虎太郎は、クラスの出し物参加しないのですか?」
「ああ、リーダーがバンドするってよ」
「そうですか、バンドって青春ですね」
「そんなかっこいいもんじゃねえ」
私の前を虎太郎が先導して店内を歩く。
この店も、虎太郎に教わったものだ。
「メイド喫茶って、去年本物に行ったからな。秋葉原」
「臨海学校ですか、秋葉原」
「おう、もちろんだぜ。メイド喫茶の本物はやばかったぜ。
金もやばかったけどな、サービスは本場って感じだ」
「シエルも行きたかったです」
「ああ、悪いな。この話はタブーだよな」
「いえ、いいですよ」
私はなんとなく笑顔を見せていた。
困った表情を見せた虎太郎は、そっぽを向いていた。私はニッコリと笑っていた。
「あのことは仕方ないです」
「そうだな、ごめん」
「いえ、いいですよ。それより、ここには売っていますよね」
「ああ、多分あると思う。会長は外人だからな、背も高いし。
そんなことよりお金あるのか?アレを買ったんだろ?」
「はい。昨日通販で抱き枕を、買いました」
「『魔法少女サトカ』の抱き枕を手に入れたんだろ、チョー羨ましい」
私の言葉に、興奮気味に話す虎太郎。
魔法少女サトカとは、深夜アニメの魔法少女ものだ。
虎太郎に、抱き枕の話を教えてもらった。私が一番好きなアニメでもある。
「さすが虎太郎ですね、サトカちゃんは神です」
「神だろ、超かわいいし。変身シーンもかなりエロいし。服が破けんだぜ」
「それはちょっと……」
私はそこには何故か抵抗があった。
前を歩く、虎太郎はある場所で立ち止まった。
「このあたりだよな、コスプレ」
「うん……これよさそうですね」
そう言いながら私は、一つの服を見ていた。
それは、マネキンが着ていた水色のワンピース。
「ああ、これか。定番の『不思議の国のアリス』か、かわいいよな。
ブロンドヘアーの会長にぴったりじゃないか?」
「シエルに似合いますね」
私はニコニコした顔を見せると、そばにあったコスプレの入ったビニールを虎太郎は見ていた。
「会長はLLサイズでも、結構微妙だよな。
はっきり言って身長170あるし、メンズサイズで探したほうがいいかもな」
「メンズ?シエルは女の子です」
「わかっているけど、会長はでかいだろ。ここにサイズ表あるし。
日本の女の平均身長は160もないから、会長の170の身長はメンズの方が早いんだ」
「やっぱり」
私には一つ、体に不満があった。
それは日本人よりはるかに大きいこと。
日本人では平均的ではない私の身長は、どうしてもメンズになってしまうこと。
クラスの中でも、最も大きい。男子に混ざっても最上位に位置する身長だ。
「まあ、男性モノを着られるだけマシだろ。俺なんか太っているからメンズものでも怪しいし」
「まあ……そうですね」それでも私は笑顔を作りながら、ショックが心の中に残っていた。
「とりあえず、メイド服だっけ?
前に買ったアニメ『MONONORIA』のコスプレで、メイド服あるだろ。
文化祭なんだし、それで十分だよ。
第一、メイドとしては背が高く、胸があって、おまけにブロンズ髪の会長は十分魅力的だからな」
「そうね、わかったですよ」
私は落ち込んだ顔で、持ってきたビニールの袋を棚に戻していた。
店内を歩いて、買い物をしないで歩くとレジを通り越していた。
賑わうレジは混んでいたが、ショッピングをすることなく素通り。
そのまま、店の外に出ていた。通路は夕方で賑わう。
このドンペンホームは、ショッピングモール化していて他にも店が入っていた。
「じゃあ、帰るか?」
「あっ、ちょっとまってください」
「そうか……俺はそろそろ帰るから。やることもあるし」
そう言いながら、私は虎太郎と別れた。
そんな私は、通路の隅に置いやられたゲーム筐体に吸い寄せられるように歩いていた。
そのゲーム筐体の名は、『タマゴアイドル』。




