003
それは昔からわかっていた。
虎太郎の言うことは事実だ。
ボクにはそれほど色気がない。
元々上に兄がいて、下に弟という男の多い家系だから女の子らしい格好は苦手だ。
制服のスカートだって、仕方なく着ているわけで。
時間はいつの間にか、打ち上げをしていた夕方から夜になっていた。
虎太郎と隆聖と別れたボクは、一人で歩道を歩いていた。
道は踏切と交わる、そこを渡ろうとしていた。
それでも一時間に一本の電車が通るのか、踏切が降りてきた。
そんな時、ボクは何気なく踏切の奥を見て驚いた。
(もっとボクがかわいければ……虎太郎にあんなこと言われないのに)
ボクはさっきの言葉が、ずっと不満だった。
ぼんやりと降りた踏切の前で、少し落ち込んだ顔でたっていた。
そんなボクが、何げに顔を上げた。
「タマゴ?」
踏切の奥には、真っ白くて人間の子供くらいのタマゴが見えた。
サラリーマン風の会社員が数人奥で待っている中に、真っ白なタマゴが違和感ありげにあったのだ。
「なんだろ?」
考えるまもなく、前を電車が横切った。
ひとつの電車が横切ったら、さっきのタマゴが奥の方に動いていた。
いや、足が生えて歩いているようだ。
「なに?あれなに?」
すぐに踏切が上がると、僕は気になって駆け出していた。
それを見てか、少し前にある白くて大きなタマゴがボクから離れるように奥に逃げていく。
「待ってっ!」
白いタマゴを追いかけると、そこはどこにでもあるスーパー『東友』にたどり着いた。
夜のスーパーは、明かりがついていてそこだけ明るい。
「スーパー?」
ボクはさらに、白いタマゴを追いかけていく。
追いかける白いタマゴが、『東友』の入口に入ってすぐのところに立ち止まっていた。
ボクもスーパーの自動ドアを抜けて、入口へと入った。
そこには、子供向けのガチャガチャや買い物かごが置かれていた。
「なに、ここ?」
「見えるのか、君は?」
「え?」
白いタマゴが、こっちを向いて話しかけてきた。
よく見ると、白い卵には細長い目と、口が見えた。
手も足も小さいながらしっかりと生えていた。
「ぎゃっ、お化け!」
「お化けじゃない、失敬な。こう見えても朕はイースターじゃ」
偉そうに胸?を張ってきた手足の生えたタマゴ。
「タマゴのお化け?だよね?」
「違う、朕はそんなものではない。
お主、この朕を侮辱するとは何事だ。であえ、であえ!」
何か家来を呼んでいるようだけど、助けは来ない。
通りがかりの主婦もいるが、全く見えていないのか素通りだ。
「あの……なに?」
「おほん、お主が朕を分かるということは、お主はタマドル候補だな」
「はい?言っている意味が、全然わからないよ」
「ぬわにっ、タマドルではないのか?タマゴ系のアイドルでじゃぞ」
「タマゴ系?もっと意味がわからないけど」
「まあよい、お主に朕が見えるということは、変身をしたいのだろう。
そのような願望が、体から溢れておるぞ」
ボクの前で、動くタマゴはそばにある機械を指差していた。
「お主の新しい姿で、世界を救ってくれないか?」
不敵な笑みで、白いタマゴがボクに怪しく語りかけた。