026
打ち上げの空気は、ボクのスマホで一変した。
ボクは、隠すことなく全てを話した。
話したことで、虎太郎と隆聖は難しい顔を見せた。
話を打ち明けた上で、ボクは頭を下げた。
「ごめんね、全部隠して。話も一気に進んだから」
「そうか」
「俺は、全然納得はいかないけどな」
隆聖は黙って聞いていて、虎太郎はじっとボクを睨んでいた。
「僕の見解はいいかな?」
「うん」ボクはじっと隆聖を見ていた。
「僕はオファー受けてもいいと思う。
これは、僕たち『ノットシステム』に対するものではない。あくまで恵一人のオファーだ。
これを縛る権利は、ノットシステムにはない」
「いいの?」
「構わないさ、それは君の人生だから。ただ……」
「ただ?」
「ちゃんと連絡はしてもらわないとね。一応、恵はノットシステムのメンバーだ」
隆聖は、ボクに対して頭を小突いた。小突かれたボクは、目をつぶった。
「ううっ、隆聖。ありがとう」隆聖の言葉が素直に心に染みた。
隆聖は、いつだってそうだ。ボクに優しくしてくれる。
「恵、頑張れよ。NSSCは僕ら『ノットシステム』憧れの場所だ。
いつか、僕らもそこを目指す。ちょっと順序が遅れるだけだ」
「だけど……」
「俺は認めない」しかし、腕組みをしているのが虎太郎だ。
憮然とした表情で、ボクを完全に睨んでいた。
「先週の駅前ライブに、昨日のライブ、成功した一番の理由はなんだ?」
「それは……みんなの演奏が……」
「違うだろ、どう考えたってメグッポが変わったからだろ。
可愛いあのメグッポがいないと、どうなる?
俺たちは、また観客なしのライブに逆戻りだ」
「別にボクは、『ノットシステム』をやめるわけじゃないよ」
「それでもだ、このままメグッポだけに依存してはだめだ」
厳しく言い放つ、虎太郎。虎太郎の前で、隆聖がじっと話を聞いていた。
「今のままでは、俺たちのバンドはダメになる。
人気は完全にメグッポ一人のものだ。演奏の力じゃない。
俺たちの実力が全く、ライブするレベルに達していない。
このままいったらメグッポだけが、どんどん先に進む。
そうしたら、もうバンドでも何でもない。バンドをする意味すらない」
「そんなことないよ、ふたりの演奏は素晴しい」
「嘘をつけっ!」
虎太郎は、一喝して僕の両方を掴んできた。
「メグッポ、わかっているだろ。自分のおかげだって。
あの姿で歌ってみんなの注目を集めているって。だから……やめろ」
「え?」
「やめろ、でなければ二度とあの姿では歌うな!」
虎太郎はそう言いながら、立ち上がった。
「今日は帰る、じゃあな」
カバンを持ったまま、虎太郎は帰っていった。
そして、ボクは隆聖と二人だけで残されていた。




