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ボクが、隆聖のスマホを耳に当てた。
隆聖のスマホは、ボクのより一回り大きい。
スマホに、耳を当てると聴こえてくるのが佐藤さんの声だ。
「佐藤さん、もしもし」
「ああ、ごめんね。ちょっとひとつの話がまとまりそうなので」
「ひとつの話って」
「ああ、君のデビューの話」
佐藤さんは、いきなり飛躍的な事を言ってきた。ちょっと声が高い。
「あの……ボクは、まだデビューをするって決めていませんけど」
「君の才能は素晴らしい。
是非デビューするしかない、君の魅力なら全国にも……いや世界にも通じる」
「そうですか……」
ボクは照れていたけど、打ち上げの隆聖と虎太郎がコソコソ話していた。
何を話しているのだろうか。
「君のデビューに、ふさわしい場所も用意してある。
名古屋のアイドルの聖地『名古屋スペシャルサウンドクラブ』略してNSSCだ」
「ええっ?NSSC?」ボクは驚くしかなかった。
「驚いただろう、でも君の魅力ならここは立派なスタートにふさわしい。
何も驚くことはない、君ならできる。あとは契約の話だけど……」
「まって、契約は……ボク一人だよね」
「当たり前だ。君の魅力なら一人の方がいい。
ほかの人間とは別れるべきだ。なに、心配はいらない。
演奏のプロを、こちらで用意できるアテはある。
君のライブを見て、知り合いのプロのミュージシャンが興味を持っていてね」
「そんなんじゃないんです」
「君は……歌を聞いて欲しくないのか?」
「えと……今日は失礼します」
ボクはそのままスマホの通話を切った。
それを、隆聖と虎太郎はじっと最後まで見ていた。
「話してくれないか?なにがあった?」
ボクがスマホを渡す隆聖は、険しい表情でずっと見ていた。




