023
二年A組に在籍する学校でのボクは、軒並み優等生だ。
中でも音楽だけは最も得意だ。歌うのも好きだし、演奏だって苦手ではない。
それでも、ボクはきっと見た目で損をしているかもしれない。
最高評価を、何故かもらったことがないからだ。
三時間目はその音楽の時間。授業は当然音楽室で行われる。
ボクは、友達と一緒に向かっていた。
音楽室についたときに、ボクはすっかり教科書を忘れてしまったのだ。
慌ててボクは教室に取りに帰っていた。
(急げっ、授業開始のチャイムなっているし)
授業開始のチャイムが鳴っていた。
ボクは廊下を走って、来た道を戻っていた。
帰る道の途中、走っていると一人の少女を見かけた。
何かを探している様子だ、だけどボクは急いでいたので少女の横を通り過ぎた。
そのままたどり着く教室。
もちろん、みんな音楽室に移動していたので誰もいない。
(さっさと、もって帰らないと)
自分の机の中を確認して、目的の音楽教科書を持って行く。
「よしっ、じゃあいくか」
ボクは、急いで誰もいない教室を出ようとドアを開ける。
開けたとき、そこに人がいてびっくりした。
「うわあっ!」
「あっ」
そして、ぶつかって僕は後ろによろめいた。
前でぶつかった少女も、驚いて尻餅をついた。
「いたたっ、ん。撫子じゃない?」
「あっ、詰草さん」
そこには、黒髪のセーラー服の少女が立ち上がっていた。
長くて綺麗な黒髪だけど、穏やかな顔を見せていた。
彼女は『宇野中 撫子』、見た目は優雅な立ち振る舞いだ。
だけど、実際宇野中グループのお嬢様でもある。そんな撫子が笑顔を見せていた。
「ど、どうしたの?」
「はい、道に迷いました」
「そっか、相変わらずだね」
そういえば、撫子は方向音痴だったよな。
まさか、二年になっても学校で迷っていたとは。
「えと、どこにいくの?」
「保健室です」
「保健室ね、それなら一階だからそこの階段をまっすぐ降りて」
「詰草さん、私を案内してもらえませんか?」
「え?……うーん」ボクは少し考えた。
「あなたには、話したいこともありますし。奥津さんのことです」
撫子がいつもどおり笑みを浮かべながら、ボクに言ってきた。
「いいよ」
「そうですか。ありがとうございます」
と、撫子はあたしに深々と頭を下げた。
ボクはそんな撫子と一緒に静かな廊下を歩いていく。
授業をしているので、周りは静かだ。
「ねえ、撫子は何組なの?」
「はい、D組です。詰草さんはA組ですね」
「うん、本当は音楽の授業をしているんだけど、教科書忘れちゃって」
ボクは手に教科書を持っていた。
「そうでしたか、それは困りましたね」
「撫子のクラスの授業は何しているの?」
「はい、美術です。ですが体調を崩して、保険室に行くところです」
「撫子はそんなに体調を崩していたの?」
「いえ、友達が……」
「そっか」ボクはそう言いながら、宇野中さんを見てはにかんでいた。
「な、何がおかしいのですか?」
「いえ、宇野中さんも変わっていないなって。一年の時と同じ。
口調は穏やかだし、方向音痴だし、なんというかあの時と同じ」
「そういえば、さっき霞ちゃんも見かけました」
「そっか」その言葉で、ボクの表情が少し険しくなる。
「霞と話した?」
「いえ、あの件で私をすごく嫌っていますから」
「そうだね、霞はあの時で止まったと思う。あの子、一番仲が良かったから」
「……ごめんなさい。私のせいです」
突然、撫子が立ち止まってハンカチを取り出して、目頭を押さえていた。
「ちょ、撫子。撫子は関係ないよ、あれは災難っていうか、神隠しっていうか。
撫子はとにかく悪くないんだって」
「いいえ、私がいけなかったのです。
私が渋谷で迷わなければ、あの日……彼女はいなくならずに済んだ」
「そう……じゃないよ」
「詰草さんも、覚えていたのですね」
「まあ、一緒だったし。あの時の渋谷、すごかったもんね。
人がかなり多くで、人だらけだし。
あんなに人を見たのは、生まれて初めてだから迷うの仕方ないよ」
「いえ、私の地元は名古屋だからそんなことありませんよ」
フォローしたつもりが、撫子に否定されてしまった。
「あっ、そうだったね。でもあれは撫子が……」
「いいえ、私です。でも、そんな私だからこそ今は行為して探す活動をしています」
「探す活動?」意味がよくわからない。
「はい、私は探す活動を……」
「お嬢様っ!」
そう言いながら、前の方から土煙?のようなものが巻き起こった。
前から何かが近づいてきた。
よく見たら一人の人間だ、制服であるセーラー服ではなく黒いメイド服姿だ。
当たり前のように、頭に白いカチューシャをつけていた。
「ご無事でしたか?」
「あら、探しましたよ」
息を切らして、呼吸を整える女子生徒。
ミディアムボブヘアーに、少し黒みがかかった肌。
なにより右目と左目の色が違う。青い右目と、黒い左目だ。
それを、落ち着いた目で見ていた撫子。
「えと、知り合い?」
「お嬢様、この者は?」なぜか僕は青い右目で睨まれた。
「この方は私を、ここまで導いてくださった詰草さんです。
こちらがハコベです、私の付き人をしています」
「そうですか、お嬢様がお世話になりました」
ハコベという少女は、ボクの前で深々と頭を下げていた。
「いえ……どうやら知り合いの方が来たようなのでボクはこれで」
「はい、ありがとうございました」撫子が頭を下げて、笑顔を見せていた。
そして、隣のハコベというメイドも両手を添えてボクを見てきた。
「お嬢様を導いていただいて、ありがとうございます」
「う、うん」
深々とお辞儀をされて、ボクは二人から離れるのだった。
帰り際に、廊下を一人で歩くボク。
(ハコベ……どこかで聞いたことある名前だな)
そんな事を思い出しながら、ボクは音楽室を急ぐのだった。




