022
『6月18日』
翌日、土曜日でも学校に来ていた。
ボクは当たり前だけど、学生だ。いつもどおりの学校までの通学路を歩く。
采女第三高校、ここがボクの高校だ。
文化祭が終わる六月、学校はいつもどおりになっていた。
学校に通うとき、ボクはいつもどおりのセーラー服を着ていた。
今日は曇っていて、かなり蒸し暑い。
セーラー服は半袖だ、青いスカーフは二年生の証。
だけどスカートの足元が、スースーするのでボクは苦手だ。
ショートカットのボクは、通学路を歩いていた。
隣にはいつもどおり彼がいた。
「隆聖っ、元気ないよ」やはりブレザー姿の隆聖だ。
「昨日のライブの後の学校だからな」
「まあ、仕方ないよ。あれだけ激しくやったから」
「だね」隆聖は、やはりかなり疲れている様子だ。
「それに比べて恵は、相変わらず元気だな」
「そうかな、ボクも疲れたよ」
「あのさ……」隣を歩く隆聖が、ボクをちらりと見てきた。
「どうしたの?」
「いや……いつもの……じゃなくてあのライブの時に見せた格好。
なんでいつも、あの可愛い格好を……」
「どうしたの、聞こえないよ」
後半が聞こえなくなる隆聖に、ボクはとぼけた。
「いや、なんでもない。はははっ」
「変な隆聖」
「そういえば、あそこにいるのって」
隆聖はなにげなく前を指さした。指さした先には、一人の女子生徒が歩いていた。
その後ろ姿は、黒く短いサイドポニー。
少し小柄で、スカートの下にはジャージのズボンを堂々と来ていた。
六月で今日は結構蒸し暑いのにも関わらず、長袖のセーラー服。
「あの姿は、間違いなく……」
「奥津さん、だね」
ボクは一瞬、タマドルのカスミンと目の前を歩く『奥津 霞』の姿が重なった。
二人は同一人物なのが、なかなか信じられないが。
「去年は同じクラスだっけ?」
「隆聖、ボクは今年同じクラスだよ」
「あら、それは大変だね」
「まあ、試験の時以外あまり来ないけどね」
「そっか、そうなんだ」
前の霞はいつも一人で歩いていた。
そんなことを知らない隆聖は、小声で僕に言ってきた。
「珍しいこともあるんだね」
「うん」しかしボクらに気づいたのか、前の霞が歩く速度を上げていた。
こちらの動きを察知して、逃げるかのように。
「奥津さんって、なんか変わった子だよね。頭はいいだろうけど」
「だね、いつもジャージだし」
「よお、お二人さん」
そう言いながら、少し低い声で声をかけてきた。すぐにわかるガラガラ声。
「あっ、虎太郎。おはよー」
「おう、おはような。なー、隆聖」
「ん?」
「話したよな」そう言いながら虎太郎が、馴れ馴れしく隆聖の肩を組んだ。
ボクから少し離れていくように見えた。
「いや……」
「なにやっているんだよ、お前は」
「ごめん」なんか、また虎太郎が隆聖を怒っているようだ。
「何を話しているの?コソコソと」
「ああ、いや。こいつがメグッポに話していないってからな」
ボクの追求に、虎太郎が両手をバタバタさせて否定した。
「話って?」
「ほらっ、隆聖」虎太郎に促されて、隆聖は照れた様子でボクを見ていた。
通学路に向かう隆聖の足が止まる。慌てて、ボクも足を止めた。
同時に向き合う、ちょっとボクもドキドキしていた。
昨日のライブ前と違って、はっきり胸の鼓動を感じた。
「あの……恵っ。実は……今日の午後空いているか?」
「うん、空いているよ。練習じゃないの?」
「練習じゃなくて……その打ち上げを」
「あっ、そっか」
溜めて期待させた答えじゃなくて、ボクはドキドキが止まった。
拍子抜けしたのか、顔を歪めた。
「ううっ、期待して損した」
「だってよ、昨日の夜に恵が抜けただろ」
「うん、しょうがないじゃない。呼ばれたんだし」
「へえ、で、なんだったんだ?」
虎太郎が笑顔を浮かべながら聞いてくるが、ボクはちょっと落ち込んだ表情を見せた。
「ううん、大した用じゃなかった」
「そっか、まあ、打ち上げ行こうぜ。今後の活動もあるしな」
「そうだな。とりあえず学校帰り校門前で待ち合わせな」
「うん」ボクは素直に返事した。




