002
演奏を終えると、いつもどおりに打ち上げで行く場所があった。
それは、学校近くのカラオケボックス。
薄暗い部屋に、カラオケとソファー。中央にテーブルがある。
そこが僕らにとっては、いわば秘密着地かわりだ。
文化祭が終わり、夜になってボクら『ノットシステム』三人は集まっていた。
「だめだ、だめだ!こんなの」
太くて大きなベースの男子が、叫んだ。
叫んで真ん中のテーブルを叩く。
彼の名は『長太 虎太郎』、ベース担当だ。
「とはいってもな、虎太郎。どうしようもない。
文化祭のホームページまで載せてもらったんだし……」
「うるせー、あんなに客はいらないとどうしようもないだろ!」
虎太郎の叫びを、なだめるのが『友生 隆聖』。
『ノットシステム』のリーダーでギター担当。
「まあ、今回も安定ってことで」
「このままでいいのかよ?客四人だぞ」
「とはいってもねぇ」
隆聖は困った顔を見せてきた。
「ちゃんとビラも配ったし……あとは」
「こんなんじゃあ、ヤバすぎだろ。人気なさすぎだろ!」
「でも……湿っぽい」
ボクが口を挟んで、さらに不機嫌な顔を見せた虎太郎。
「どこが湿っぽいんだよ」
「なんというか音が湿っぽい。元気がない気がするんだ」
「そんなはずはない、お前の耳がおかしいんじゃないか?」
「ううん……そうじゃないとおもう」
ボクはずっと不満だった。最近ボクはライブに不満があった。
始めた時は、もう少し荒削りというか音に元気があった気がした。
「こういう時のカラオケだよ。虎太郎」
「ふんっ」不満げにマイクを取り上げた虎太郎は、選曲していた。
「でも、いいの?リーダー?」
「ライブまでに人気が集まらなければ……今回の文化祭ライブだって、ちゃんと広告しているわけだし」
「無理だよ、このままじゃ」
ボクは素直に言い返した。
だけど、隆聖は顔を横に振った。
「ううん、僕たちはここまで来たんだ。やれるだけやってみよう。
それが僕らにとっていい経験になるんだから」
「でも、明らかに人気が足りないよね」
「それなんだよね」
ボクの指摘に隆聖は不満そうに顔をしかめた。
「小さなライブハウスまでは抑えたけど」
「おいおい、恥をかくのはゴメンだぜ。
それにノルマがきついだろ、ライブハウスのノルマ」
「それは……みんなで決めたんだから」
「うまいうまいって、周りが言ったから始めたけどよ。
結局全然じゃねえか。場所代だって、タダじゃないんだぞ!」
「わかってるよ」
隆聖の表情に笑顔はなかった。
虎太郎に責められて、怒っているようにさえ見えた。
「人気がないから……」
「うん」僕もソファーの上に体育座りしていた。
「なにかないか?人気が出る方法」
「そんなもの、音楽の魅力以外は……見た目か?」
「うーん、見た目ねえ……やはりボーカル?」
「え?」ちらりと、唯一の女子であるボクを見てきた隆聖。
「あー、ダメだ。メグッポに期待するのは野暮ってもんだ」手を振る虎太郎。
「なんだよ、それ?虎太郎どういう意味?」
「メグッポは声だけかわいいけど、顔はイマイチだ。色気もないし」
「ううっ、ひどい」
「本当のことだろ、本当に……声だけ女だ」
「声だけ声だけかわいいって言うなっ!」
ボクはすかさず、ソファーの上から虎太郎に頭突きを食らわす。
ボクに頭突きを食らわされた虎太郎は、ソファーの上にのけぞっていた。