017
『6月17日』
あの夜から数日後、ボクら『ノットシステム』のライブが行われる金曜日の夕方が訪れた。
会場は夜七時からだけど、会場近く四日市の駅近くにいた。
学校が午前中で終わった午後、一度家に帰って着替えて駅に集合したのは昼の三時すぎだ。
平日の昼間ということもあって僕は、普通の『詰草 恵』。
ジーパン姿にシャツといつもどおりカジュアルな格好だ。
ボクは街灯で、ビラを配っていた。
「今日の夜、ライブハウスで『ノットシステム』のライブやりま~す。
よかったら見に来てくださ~い」
ボクは声をかけて、ビラを配るも大学生らしき男性はスルーした。
「ビラを配らないとな」
「会場費はこの前の路上ライブでなんとかなりそうだけど、お客さん来るのだろうか」
隣で愚痴る虎太郎。彼も、また大きな体でビラを配っていた。
虎太郎の衣装も、あまり変わらない。短いシャツに黒の短パン。かなりラフだ。
彼の持っているビラが減っていないことが、苦戦を物語っていた。
「ライブハウスのノルマってきついよな」
「そうだな、客がガラガラにならないように。こうやって配るってわけさ」
隆聖もまた、ガラモノシャツに迷彩柄のズボンと私服だ。
「けどよ……認知度低いよな」
「まあ、学生バンドだし。僕らの音楽を広げることを……」
「俺はヤダぜ、ガラガラの中でやるの」
虎太郎は、相変わらず不満そうだ。
「その前に、ビラ百枚配らないとライブすらさせてもらえないよ」
「だよな、金までとってノルマ決めてひどいだろ」
虎太郎は相変わらず、不満そうだ。
「でも、前回みたいにお客さん来れば、ボクらの声は届くんだし」
「なあ、メグッポ」こういう呼び方をするのは、虎太郎しかいない。
「どうしたの?」
「前みたいに、イメチェンっていうかあの可愛い格好はどうしたんだ?」
「えっ、それは……」
あの日、カクイドリに襲われた。
それ以来、ボクの中には少しの抵抗があった。
「うーん、あれは……」
「あの格好をすれば、みんな見てくれるんじゃないか?
あの格好、すごくかわいいし、めちゃくちゃ目立つし」
「ああ、そうだね。確かに可愛い。
恵の違った一面が見られて、僕も好きだな」
虎太郎が頷き、隆聖が同意した。
「やっぱり、そうかな……」
「ああ、絶対あっちがいいって。すげえかわいいし、女の子っぽい。
だいたいメグッポは元々可愛い声なんだから、わざわざ男の子っぽくする必要もないだろ」
「おねがい、できるかな?」
隆聖に言われて、虎太郎に褒められてボクは少し恥じらいながら頷いた。
(だいじょうぶだ、きっと)
ボクはちょっとした迷いを断ち切って、変身をすることを決めた。
「じゃあ、ちょっと待ってくれる?」
ボクはそう言いながら二人に切り出していた。