158
(KASUMI’S EYES)
あたしにとって、ジャージを着ないのは久々だ。
いつも肌の露出を抑えるために、あたしはジャージが手放せない。
それは、体にある無数の傷。
腕や足には、まだ切り傷のあとが残っていた。
それでも、あたしは変われた。
住宅街の家の前で、待つあたし。
一軒家の前で、あたしは待っていた。
やがて、ひとりの少女が家から出てくる。
「おはよう、カスミン」
それは一年前と同じ笑顔で出てきた緑子だ。
「うん、ミーコ。おはよう」
「カスミンは、ちょっと怖い顔だよ」
「そうかな……ふふっ」
あたしとミーコは一緒に歩く。
「でも、カスミンは相変わらずだね」
「何が、相変わらずなの?」
「嘘を隠すのが苦手だって」
「苦手じゃない、あたしは……」
「ずっと、私のことで迷惑をかけたみたい。ごめんね」
不意にミーコがあたしの手を掴んできた。
「ミーコ?」
「カスミンは、あたしが勝手にいなくなって許してくれないと思うけど」
「そんなことない」
あたしは必死に言い放った。
「あたしはミーコがいなくて、自分が不安になった。
自分がこんなに弱いと思い知らされたわ。
だから……あたしは学校にすら行っていない。
すべてを投げ出そうとしたの……あたしは弱かったから」
「でも、カスミンは強いよ。私が保証する」
「ミーコ……」
落ち込むあたしに、いつも一筋の光を差し込むミーコ。
そんなあたしは、やっぱりミーコが好きなのだ。
「うん、でもあたしはやっぱりミーコといっしょがいい」
「そうだね、ごめんね。心配ばかりかけて。私はずっと一緒だから、ね」
「うん、ミーコ」
あたしはミーコの手を掴んだまま、泣いていた。
あたしの前のミーコは、あたしの手を掴んだまま穏やかに微笑んでいた。