151
歌がとまった、ライブが終わったのか。
まだ終わっていない。時間が一瞬だけ止まったのだ。
止まった時間の中で、あたしは一人だけ動けた。
そんなあたしの前では、王座に座る緑魔女もまた動いていた。
「ここは?」
「今、動けるのはあなたと私だけね」
緑魔女が上から声をかけてきた。見上げた緑魔女はフードをかぶっていた。
「あなたは緑魔女……いや緑子」
「そう、私はかつて綴 緑子といわれていたわ」
「ずっと、疑問だった。緑子、あなたは地球にいた時はそんな子じゃなかった。
みんな、緑子のことが好きだった。なのになぜ?」
「私は、そんな褒められる人間ではない。
何もない、霞や恵、撫子にシエルと違って何もない」
「何を言っているの、みんなあなたの話をして……」
「何がわかる?私はごく普通なの。ごく普通で目立たない一人の女子。
キャラも、個性も何もない没個性の一人間」
緑子ははっきりと言い放っていた。
そこに彼女の闇が重なる。
「霞が言っていた、受験の失敗か?」
「それだけじゃない、自分はもっと小さいころから何もできなかった。
みんなのように、何ができる個性がないの」
「個性なら、あるじゃない」
「ないわよ」
「みんなが認めている社交性は個性ではないの?」
あたしはずっと持っていた疑問だったことを言った。
緑魔女は、緑子は変わりたかった。
平凡で何もない自分を変えたかった。
そのために彼女は、カクイドリにとらわれることを望んだ。
変われる力を手にして、自分や周りを変えようとした。
「私は、私は……」
「あなたは素直な子です。あなたにもある変身願望が、一部のカクイドリに誘惑されただけ」
あたしは緑魔女を抱きしめた。
「私は……」
「素直でいいですよ、自分はあなたを今なら許せます」
「うん……ごめんなさい」
緑魔女は消え、いつの間にか素直な緑子に戻っていた。
彼女を覆う、カクイドリのオーラが消えていた。