015
今のボクには輝きがない。
ボクは衣装がボロボロのまま、ようやくスーパーの筐体にたどり着いた。
ここの筐体は、近所のスーパーは二十四時間ではない。
もうすぐ閉まってしまう。急いでタマゴアイドルの筐体に向かう。
しかし、そこには先客がいた。
しかも、そこにいた先客はボクが知っている人だ。
黄緑のジャージに、ポニーテールの黒髪。さらには度がきつそうな眼鏡をかけていた。
見た目がかなり冴えない少女が、筐体に向き合っていた。
「えっ?もしかして霞なの?」
「そう……あたしは『奥津 霞』よ」
そこにいたのは、クラスメイトの霞だった。
クラス一の秀才で、学年トップの頭脳の持ち主。
成績に関しては、ボクといい勝負をいつもしている才女だ。
高校二年間同じクラスで、中学も隣の中学だ。
だけど、霞は学校に来ない生徒としても有名だ。
そして、ボクは彼女の声がある人物と重なる。
「霞がもしかして、カスミン?」
「そうよ」隠すことなく言ってきた。
「ちょっとどういうこと?どうしてボクのことがわかったの?」
「あなたがこのゲームをやるのを見ていたのよ。あたしの家が近いのはわかるでしょ」
「そっか……」
「それにしても、あなたの変身はくだらないわ」
霞は、じっとボクを見ていた。いつもながらに目つきが澱んでいた。
彼女は感情をあまり表に出さない。
「くだらないって」
「今日の路上ライブも見ていた、あなたのこと」
「見てくれたんだ、ボクのこと」
「あんな理由で変身するなんて、くだらないわ」
霞は睨んでいる。ボクはじっと彼女に向き合っていた。
「霞だって、逃げているんでしょ。あの頃から何も変わらない。
学校にも行っていないでしょ、ボクよりよっぽどくだらないんじゃない」
「あたしには、あそこに居場所はない。一番大事なものを失ったから」
「その件を、いつまでもひきずるの?」
「引きずっているに決まっているじゃない!
あの日、あなたたちと一緒にいなければあの子は……」
霞が右手拳を握って、目がさらに鋭くなった。
「でも、あれから一年たったし。ボクらはもう進まないといけないんじゃないかな?」
「ふざけないで、勝手に終わらせないでよ。あの子はまだ生きているのよ」
「じゃあ、どこで……」
「見たのよ、四日市で。帰ってきたのよ!」
霞がそう言いながら、背中を向けた。
「ひとつだけ忠告しておくわ」
「え?」
「ハコベというメイドに気をつけて。
あなたもタマドルなら、いずれ彼女に会うはずだわ。
彼女の言葉には、絶対に耳を傾けてはいけない」
そう言いながら、霞が東友を出て行くのだった。