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その日の夜、自分は和室にいた。それは恵とシエル会長がいる和室。
試験は終わったけど、二人は残っていた。
何より、そこにいたのは霞だ。
霞もまた、あたしたちの合宿に参加していた。
あたしの蔵には、タマドルの筐体もある。
練習するにはうってつけでもあるのだ。
「まだいたのか、ハコベ」
「ここは自分の家だ。それに聞きたいことがある」
「撫子を肩入れするとは」
「無論だ、イースターは五人いないといけない。
しかもその五人は既に決まっている。この五人以外はあり得ない」
「ずいぶん理不尽だな」
霞が言い放っていた。隣では恵とシエルが話をしているみたいだ。
ただ、彼女たちとあたしと霞の空気感が全く違うが。
「綴 緑子について、一番詳しいと聞いた。
自分はこれから戦う上で彼女の情報がほしい」
「緑子とは小学校からいっしょだった。それだけよ」
「それは違うよね」
そこに口を挟んだのが、恵。
「恵、口を出さないでちょうだい」
「そうはいかないよ、霞は」
「何を言っているの?」
「霞はいつも緑子と一緒だしね。ボク知っているよ」
すると、霞がすかさず恵の首元をつかむ。
「これ以上言ったら、わかっているでしょ」
「へえ、怒るってことはそういうことだよ。ハコベ、やはり緑子には霞が詳しい」
「何が聞きたいの?」
「彼女のこと、なぜ緑魔女になったか」
「知るわけないでしょ」
自分の質問に冷たく言い放つ、霞。
「彼女は、少なくとも地球にいた時はこんな性格じゃなかったんでしょ」
あたしの言葉に、霞ははっきりと睨んできた。
「そう、緑子はそんなことは考えていないわ」
「だったらなぜ、彼女は緑魔女に?」
「でも、あなたたちは知らないのよ。恵も、シエルも。撫子だってそう」
霞はどこか遠くを見ているようだ。
「あたしは、緑子に羨ましがられたのよ」
「え?」意外な言葉に、あたし以上に恵が驚いていた。
「羨ましい……」
「そう、あたしには緑子にないものなんか何もない。
何もないはずなのに、自分は……」
「霞って、何もないの?」
あたしは一言、言い放った。
その一言で、霞の眉が動いた。