139
『6月29日』
~~タマゴ王城~~
ここはかつて自分がいた城だ。
自分は、一人でここに潜入していた。
ここでやる目的は決まっている。
今頃、撫子お嬢様や恵、シエル会長は試験をしている時間帯だ。
試験のない自分は、みんなの試験が終わるまでに調べないといけない。
潜入をしてから二日目。
今、ここの城は緑魔女が支配している。
自分を追い出して、カクイドリに守らせていた。
それでも、自分は音符玉を発生させてカクイドリを沈めていく。
緑魔女に見つかったら、逃げることをはっきりと決めていた。
少数のカクイドリを相手にするには難しくないが、大群のカクイドリを相手にできない。
見つかってカクイドリを放たれれば、ひとたまりもない。
城の廊下を走る。
目標は、地下にある書庫。そこを目指して走るしかない。
(『チェンジワールド』の手がかりを手にしないと)
あたしも、このスキルは知らない。
使う機会もないが、過去に使われた実例があったとされる。
だけど、あたしが生まれた時には使われることはなかった。
(このあたり?)
自分の目の前に、地下に下りる階段を見つけた。
書庫の位置はわかる。だけど、当然のことのようにカクイドリが守りをつけていた。
(音符玉で)
自分は、王女のコンパクトで音符玉を発生させることができた。
しかし、それを使うとカクイドリに見つかってしまう。
見つかって逃げられるまでに、カクイドリを仕留めなければならない。
音符玉を発生させて、カクイドリを沈めた。
(地下に、どれぐらいいるのだろうか)
周囲を見回しながら、自分は地下へと降りていく。
地下の書庫に行けば、求めるものは手に入る。
だけど、下の廊下を覗いて愕然とした。
(なんて数なの……)
そこには数多いカクイドリだ。
見えた範囲では三十はいるだろうか。
それを一気にしとめるのは、かなり厳しい。
(だけど、ここに行かないと……)
廊下の先にある書庫の扉が見えた。
だいぶ距離があるが、何とかあそこにたどり着かないといけない。
(お嬢様たちだって、頑張っているんだ。自分も)
お嬢様と、恵、シエル会長に霞の顔が浮かんだ。
自分のやることは、決まっている。静かにうなずいて、顔を上げた。
そして、自分は走った。
音符玉が間に合わないのなら、強行突破しかない。
見つかっても、それまでに書庫で『チェンジワールド』にまつわる本を手に入れるしかない。
走って、廊下に出た瞬間に見つかった。同時に数匹のカクイドリが奥へと逃げていく。
それを追いかけることはしない。
残り十数匹が、自分に向かってきた。
衣装を裂くと、自分の体に痛みがあった。
(ううっ)顔をゆがめながらそれでも書庫を目指して走る。
だけどカクイドリの数が予想以上に多かったのだ。
自分のメイド服を切り裂いていく。
(間に合え、自分)
自分は無我夢中で走った。
衣装が破けて、破けた衣装から自分の体に痛みが走る。
それでも足を止めなかった。
そして……
「よしっ」自分はなんとか書庫にたどり着いたのだ。
書庫の扉を開けて、カクイドリから耐えきった。
だけど自分のメイド服の上半身が、ほぼ破けて下着が見えていたのだ。