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夕方、自分は客室の掃除に追われていた。
自分には試験はない。だから精一杯のおもてなしをするのが仕事だ。
そんな空いている和室の掃除に、お嬢様がいた。
「お嬢様はやらなくても、明日のお勉強をしていてよろしいのです?」
「いいえ、私もやります」
口元をマスクで覆ったお嬢様はなれない手つきで、ハタキを降っていた。
「でも、お嬢様の行動力はすごいですね」
「きっと緑子ならそうするでしょう」
「緑子とは、そんなにすごい方ですか?」
「ええ、彼女は誰よりも行動的でした。
一人の私と、一人の恵、そして一人のシエルを引き込んでくれた緑子」
お嬢様も緑子が好きなのだ。
それとライブで戦うことを言う自分は、お嬢様に重荷になるかもしれない。
それは難しい話なのだと、改めて思う。
「緑子のこと、お嬢様は好きですか?」
「はい、好きですよ」
お嬢様がどこか穏やかな顔になった。
「緑子は、明るくて行動的でした。
いつも霞と一緒で、輝いていた存在。
だけど彼女が一番優れていたのは、どんな闇を見逃さない目を持っていたのです」
「闇を見逃さない目?」
「私も、恵も、シエル会長もクラスではどこか浮いていたのです。
シエル会長は、外国人で文化の違いがありますし。
恵は、どこか声と見た目に違和感があります。
そんな私は、世間知らずで思ったことを口に出してしまう。
だから、みんな敬遠されていたのです。それが闇。だけど……緑子は見捨てなかった」
「そんな子が、お嬢様の前に……」
「だから、私は思ったんです。救えないかって」
お嬢様はやはり霞と同じだ。
そのことに、自分は安心もあり不思議な思いがあった。
自分は今まで、緑魔女はただの侵略者だと思っていた。
だけど、お嬢様たちは思い出がある。
いや、お嬢様だけではない。
みんな、緑子と関わりがあった。
「そろそろ、片付けをしましょうか」
「了解しました」
「緑子も」
「お嬢様?」
「ハコベの世界を、侵略したのも緑子です」
「はい、そうですね」
いきなりの言葉に、自分の表情が緊張していた。
「緑子を連れて帰らないとね、イースターライブの成功は欠かせませんから」
お嬢様は、掃除をしながら笑顔を見せていた。