013
~~ライブハウス(トルティージャ):ソロ『メグッポ』~~
そこは、薄暗いライブハウス。
ライブハウスのステージに立っていたのはボクだ。
ライトに照らされて、ボクはマイクを持っていた。
「ここって、ゲームの中?」
「そうじゃ、タマゴ王国じゃよ」
「タマゴ王国?ああ、ゲームの中の設定か」
周囲を見回すと、ライブハウスだ。規模は小さい。
ステージ側に立っていて、周囲を見回した。
「げっ、カクイドリ?」
観客席には、カクイドリの群れが目を光らせてじっとこっちを伺う。
「そろそろ曲が始まる」
「曲って?」
「ライブじゃ、失敗はできんぞ」
「え?」そう言いながら、ライブハウスに曲が流れてきた
この曲も聞いたことのない曲だ、アップテンポなポップな曲だ。
だけど、ボクの口が自然と歌い始める。この曲を知らないはずなのに、歌が聞こえた。
そして、ボクの周りには玉が出てきた。
(前のライブみたいにやればいいのかな)
ボクは、右手で玉を弾くと玉が前にいるカクイドリめがけて飛んでいく。
そのまま玉が当たると、一匹のカクイドリが金切り声を上げながら落ちていくのが見えた。
(やったの?)ボクは心の中で、カクイドリが倒れるのを見ていた。
歌を歌っているせいか、喋ることができない。
「カクイドリは、ライブで発生する音玉で倒すことができる」
しゃべっているのは、胸でカードになっているイースターだ。
「だから、タイミングよく玉を弾くことでカクイドリを倒すことが出来る。
ライブの一曲が終了したら、カクイドリを大量に撃破出来る」
一人で喋るイースター。聞き返したいが、しゃべることはできない。
ダンスをしながら、次の玉を弾き返す。
音符が入った玉で、イースターを次々と沈めていく。
「とにかく、ミスなくダンスをやりきるのだ。よいな、メグッポ」
ううっ、しゃべりたいことばっかり喋って。
ボクはそれでも玉を弾くダンスに専念していた。
曲のテンポが徐々に上がっていく。
(まにあわなっ……あっ)
一個ミスった。浮き上がった玉が、カクイドリに放たれる前に消えたのだ。
「おしかったね」の文字が浮かび上がる。
それと同時にカクイドリが一匹、猛スピードでこっちに向かってきた。
(いやあっ!)悲鳴にならない声を上げた。
スカートを、カクイドリの鋭いキバで裂かれていた。
顔を歪めて、カクイドリを睨む。
「いかん、ダンスが乱れるぞ!」
イースターの言うとおり、ボクのダンスが乱れていた。
タイミング良く触らないと、音符の玉が消える。
玉が消えると同時に、カクイドリが次々と襲いかかる。
(きゃああっ!)
顔を歪めつつも、口が動く。
真っ白な手袋がカッターで切られたかのように裂け、白いソックスも破けていた。
ただ衣装が破けただけなのに、全身が針で刺されたかのような痛みがあった。
(なんなの、これ。すごく……痛い)
顔を歪めながら、息を切らしていた。
「マズイな、ダンスが乱れている。冷静になれ」
イースターがアドバイスをするも、ボクは冷静になれない。
不意に来る痛みが、ボクのステップやダンスを小さくしていた。
次々と、玉を触れることができずに、カクイドリが飛びかかってくる。
(痛いっ、痛いよっ!)
ボクは叫びにならない声を、心の中で叫ぶしかない。
本当に痛い痛みは、きっと誰にも聞こえない。
ボクのお気に入りのナース服の衣装が、ボロボロになっていた。
ようやく、間奏パートに入る。
曲は聞いたことがないにも関わらず、口が勝手に反応していた。
これから二番があって、サビもある。
息を切らして、呼吸を整えるのが精一杯だ。
(このままじゃあ、衣装がボロボロで……怖い)
カクイドリに引っかかれた、ナース服が見えた。
切れた天使の羽は、ほぼ原型は失っていた。
それでもボクの体は血が流れていないし、目立ったケガもない。
だけど、こんなに全身を包む痛みはなんだろう。
「大丈夫か?落ち着くのじゃ」
イースターの声のトーンも、落ち込んでいるようにも聞こえた。
「はあっ、はあっ……だめ……かも」
ボクはようやく喋れた。それは自分の不安、踊りきれない恐怖だ。
前には観客席にいるカクイドリが、三十はいるだろうか。
その目が、ボクを追い込んでいく。
「あきらめるな。そこで終わってしまうぞ」
「でも……」
「弱い者は引っ込んでいろ!」
そんな時、ライブステージの背後から声が聞こえた。
そこには、一人の少女がステージに歩み寄っていた
真っ黒なベストに白い半袖シャツのトップス。
真っ黒なミニスカートに、黒いミニブーツ。
なにより黒いつばのついた警察の帽子は、金髪のミドルヘアーだ。
彼女は間違いなく婦警のように見えた。
いや、婦警の格好よりかなりセクシーな衣装だ。
セクシー婦警の少女は、そのままボクの隣に立っていた。
「メグッポ、お前は下がれ。あとはあたしがやる」
そう言いながら、金髪のミドルヘアーの少女は何かを操作していた。
操作すると、ボクの足元が急に光りだした。
「あなたは……」
「さあ、あたしのライブを見せてやる」
少女はあたしのほうに向くことなく、ダンスを始めて歌いだした。