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まるでそれは異様だった。
黒いカクイドリが、ナデシコだけを狙いうちだ。
(お嬢様っ!)叫んでも、声にならない。
ナデシコの紫色のベリードレスがほぼ破けて、黒い下着が見えた。
スカートもなく、紫色のソックスも破けていた。
(どういうことだ?)
ナデシコは、Aランクの『アジア系アイドル』だ。
名刺にもそう書いてある、ライブの技術はそう低くはない。
だけど、ナデシコだけがはっきりと狙われていた。
(このライブ、おかしい)
自分はそう思いながらも、ライブを続けていた。
サビを終えると、ようやく間奏に入った。
そして、隣で呼吸を乱すナデシコが見えた。
「はああっ、はあっ」
「お嬢様っ、大丈夫ですか?」
隣でギリギリまでのライブエリアに駆け寄って、ナデシコに手を伸ばす。
だけど、三人は隔離されていた。
ライブの間は、そばに行くことができない。
ナデシコはほぼ裸の状態で、肩で息を切らしていた。
「大丈夫……です」
「いえ、大丈夫ではないです。そんなにハードなのですか?」
「音符玉が多くて……」
「とにかく、すぐにアイドルアピールで回復してください」
「あっ、その手がありましたね」
「あとは……プリンセスコーデ特有の……」
だけど、自分は最後に言おうとしたが曲が始まっていた。
曲が始まっても、自分の周りに音符玉がそれほど発生しない。
それだけに、隣を見る余裕があった。
だけどナデシコの周りには、狙い撃ちのように無数の音符玉が発生していた。
(これは、おかしい)
自分は睨みながらも、ライブを続けるだけしかなかった。