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その日の夜、自分はいつもの蔵にいた。
お嬢様に与えられた蔵は、カラフルに飾り付けられていた。
これは自分がいたタマゴ王国に、合わせたものだ。
自分の部屋は、こういう部屋だから。
そして、何よりゲーム筐体がここに置いてあった。
お嬢様に頼んで、このゲーム筺体があったのだ。
ゲーム筺体の前に立って、自分はピンク色のコンパクトを見ていた。
「ハコベ……」そんな蔵に、入ってきたのが撫子お嬢様。
いつもどおりのピンク色の浴衣。
その表情は、落ち込んでいる様子だ。
「どうされましたか?」
「あの緑魔女は何者ですか?」
「自分の世界を滅ぼした張本人です」
「あの子は、似ています」
「緑子と言っていましたよね」
「はい」撫子お嬢様は、落ち込んでいる様子だ。
「彼女はタマゴ王国を滅ぼした張本人です、なにより彼女は……」
「それがよくわかりません、彼女は緑子だと思います。私の名前も知っていました」
撫子お嬢様が珍しく主張した。
二ヶ月ほどいるけど、あまり自分の主張をしないお嬢様だ。
そんなお嬢様が、はっきり言っては食い下がらない。
「お嬢様、その緑子とは?」
「私たちが臨海学校で、一緒だった友達です」
「友達?」
「はい、緑子さんはみんなに優しい方でした。
でも、臨海学校で寄った東京で行方不明になったのです」
「行方不明……」
自分はどこか引っかかっていた。
「どういう意味ですか?」
「さあ、詳しい人が学校に来ないのでなんとも」
「詳しい人ですか」
自分は首をかしげていた。
地球の人間が行方不明になるのは、カクイドリで間違いない。
カクイドリに襲われた地球人は、タマゴ王国に連れて行かれるからだ。
「そういえば、それはいつですか?」
「一年前のちょうど今あたりです」
「そうですか」
自分はずっと考えて、ひとつの答えを出した。
「それは、もしかしたらとんでもないことを自分がしたのかもしれない」
「ハコベ?」
「自分がカクイドリの不穏な動きを見逃していなければ……すまない」
自分は深々と頭を下げた。
それは僅かな予兆があった。
タマゴ王国で、カクイドリが一時爆発的に増えた時期があった。
それの対応がうまくいかなかった自分は、カクイドリを一部ベーツァの門から逃がした頃を思い出す。
「それは、ハコベだけの問題ではありませんよ」
「いいえ、自分の問題です」
「それにしても、おかしいのは緑子です。
なぜ彼女が、カクイドリと一緒に行動しているのか」
「残念ながら、それはわかりません」
自分は、首を横に振った。
「そういえば、ハコベは知っているのですか?」
「なにをですか?」
「緑魔女の目的を?」
「ええ、なんとなくはわかります。確信はないですけど」
そう言いながら自分は、ピンク色のコンパクトをじっと見ていた。
「そういえば、それはなんですか?」
「これは女王の証です」
そう言いながら、コンパクトを開いていた。