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『6月5日』
あれから、二ヶ月もの月日が流れた。
自分は、宇野中 撫子に拾われた。
自分が落ちたのは、この世界。タマゴ王国ではない、もうひとつの世界『地球』。
タマゴ王国と地球は、不確定ながらも繋がっていた。
それは『タマゴアイドル』という、ゲーム筐体でだ。
このゲーム筺体を開発するにあたって、地球のごく一部とつながっていた。
だが、臨時で開いた門をくぐってこの地球に来ていた。
今、自分がいるのは台所。
朝早く宇野中家の屋敷にある台所で、料理を作っていた。
包丁を鳴らせる音を立てていた。
自分の後ろには、老人の給仕が立っていた。
「切り方はこうじゃ、包丁もできぬのか。今の給仕は」
「申し訳ありません」黒いメイド服で、私は謝っていた。
「鍋が吹きこぼれておるぞ、鍋も見て」
「はい、給仕長」
「手を動かす、全く」
自分は、メイドの仕事をしていた。
宇野中お嬢様に助けられて、自分には目的があった。
だけど、地球に来たのは初めてで生活基盤があるわけでもない。
「それから料理は真心が大事ですよ」
「真心ですか?」
「そうです、お嬢様に食べて欲しいという心が大事なのです」
「はい」自分は給仕長の言葉に耳を傾けていた。
こうして宇野中家抱えつけのメイドになると、見えてくるものもあった。
「そろそろ、お嬢様を起こしてもらえますか?」
「わかりました」
自分はそう言いながら、料理をやめて台所を出ていった。