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『6月24日』
翌日、久しぶりに学校に来た。
学校指定のセーラー服にジャージ、あたしのいつもの格好だ。
この日は、兄の麦が言うとおり会いにいく。
緊張は、不思議としていない。
そのままテニスコートの裏で、あたしは潜んでいた。
すぐ裏にはあの女がいた。
黒くて長い髪のセーラー服の女、大人しそうで優雅な女だ。
間違いなく彼女が『宇野中 撫子』あの時と変わらない、上品な座り方をしている女だ。
ベンチに座って、無意味に大きい深呼吸ばかりをしていた。
それからまもなくして、兄の麦が現れた。
撫子は、麦に告白をしていた。どうやら間違いはない。
でも兄の何がいいのか、あたしにはわからない。
兄が最後に、撫子と友達になる話をあたしは見せられていた。
「それじゃあ……」兄の麦が、去ろうとした。
「お兄ちゃん、まだよ」
兄に撫子の注目が集まり、あたしは素早く動いた。
カッターナイフをぬいて、撫子に悟られないように忍者の事に近づく。
「霞、そうだったな。すまない」
「どういうことですか?」
「あたしも会いたかったのよ、宇野中 撫子さん」
あたしはすぐさま、撫子の背後に回った。
一瞬のことだ、あたしの奇襲は成功した。
「あなた、あたしの家来にならない?」
そう言いながら、あたしはカッターナイフを取り出して撫子の首元に近づけてきた。
「私のことを、どうするつもりですか?霞さん」
撫子が落ち着いた顔で、背中のあたしを見てきた。
意外な落ち着きぶりに、少しだけあたしは焦った。
「さあて、どうしようかしら?」
あたしは不敵な笑みを浮かべて、カッターナイフの刃を伸ばす。
「まずは、あなたの『タマドルカード』を渡してもらおうかしら?」
「それが目的ですか?霞」
「単純なこと、あたしの家来になって緑子を助け出すの」
「あなたも知ったのですか、そうですか」
「何が言いたい?」
「是非、あなたとは平和的なお話をしたいものです。
あなたがカスミンであることは、すでに知っていますから」
そう言いながら、冷静にカッターの刃を見ていた撫子。
「ミーコみたいな事を言うな、不愉快だ」
「そうですね、あなたは一番大事な友達を失ったのですから。
でも、私だって失ったのです。それは、彼女の放つカクイドリによって」
「なるほど、そんなことよりさっさ……」
だけど次の瞬間、あたしの胸にずしりと強い衝撃が走った。
「あの、少しだけ痛くしますよ」
あたしが一瞬怯んだすきに、撫子があたしに肘打ちをしてきた。
「しまっ……た」
撫子の一撃が、あたしの腹に思い切りめり込んでいた。
そして、そのままあたしは気を失ってしまった。