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『6月23日』
あたしにとっていつもの、ルーティーンかも知れない。
腹が減ったら、近所のスーパー東友に行く。家に両親がいなければ、だいたいこうだ。
実につまらない人生を過ごしていた。
それもこれも、探し物がこの世界にない。
この生活も、三ヶ月目に突入していた。
ジャージでスーパーを歩く。夜七時ということもあって、主婦も少ない。
むしろこの時間は、客が減って快適だ。
(さて、買って帰るか)
スーパーのカゴに、ほしいものを入れていた。
裕福ではないのでお金はないから、買うものは慎重だ。
「あれ、奥津さん?」前から出てくる一人の少女。
「なに?」あたしはその声を聞いて、不機嫌な顔になった。
あたしの前に出てきたのは、ショートカットでセーラー服の女。
その少女を、もちろん知っていた。
なにより、この前にもここのスーパーで出会っていた。
「『詰草 恵』何しに来たの?」
「うん、ボクはお菓子を買いに来たんだ」
「そう」
彼女の持っているかごには、確かにお菓子がいっぱい入っていた。
「奥津さんも買い物?」
「そうよ、それ以外にスーパーに来ないじゃない」
「それもそうだね、それから……言い忘れたことがあったの」
「なに?」
「助けてくれて、ありがとう」
恵は、あたしに笑顔でお礼を言ってきた。
「お礼を言われることはないわ」
「それでも、お礼を言いたいの。それでね……あの時はまだわからなかったけど」
買い物かごを置いて、急に恵はセーラー服のポケットを探る。
そして差し出してきたのが、『タマドル名刺』。
「僕は『メグッポ』、タマドルなんだ。
まだアイドルランクは『地方アイドル』だけど、よかったら奥津さんの……」
「そうよね、あなたもそうよね」
「え?」驚いた顔を見せた恵。
「あなたはタマドルでしょ。一人で行動しているのかしら?」
「えっ、ボクは違うよ。昔の友達と一緒なんだ」
「昔の友達?」
「そう、明日も撫子に会うんだ」
「なるほど、わかったわ」
あたしは、そう言いながらあることを思い出していた。