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『6月10日』
このバンドには、決定的に足りないものがあった。
それは、ボク達がよく知っているものだ。
今日は文化祭、学校が賑わう。
教室で、バンド演奏をしている男子が二人。
二人共ブレザー姿だ、二人のバンドの前にいるのが一人のセーラー服を着た女。
真ん中で歌っているショートカットの女が、ボクこそ『詰草 恵』なのだ。
「ボクはきっと君を~愛してるっ!」
ボクは最後のサビを歌い上げて、マイクを片手に声が響く。
隣には、二人の男子を従えていた。
一人は、ボクの右側で大柄でベースを弾いていた。
もう一人は、ボクの左側で高身長の割には痩せているギターの男。
ボクらは、『ノットシステム』という三人組のバンドだ。
六月頭の文化祭で、ボクは空き教室で演奏していた。
「恵ちゃん。すごいです、本当にすごいです」
真ん中には黒髪の少女が、笑顔で手を叩いていた。
「どうも、ありがとうっ!」
ボクは、元気よく手を振った。
だけど、その歓声はあまりにも小さかった。
なぜならばボクらのバンドの観客は、わずか四人だったのだから。