夢喰いバク
「モコ、調子はどう?ムクもうお腹空いてるのー?ちょっと待ってね。もう少しだから……よし、2人共準備はいい?行くよ」
12月24日。クリスマスイブの夜。
子供たちが寝静まった頃。
魔法の橇は、空を飛ぶ。
「さてさて、モコ。仕事だよ。今日は何処から行く?」
夢喰いバクの1匹──名前をモコという──に問う。
この子はメスのバクで、嗅覚が発達している。
人間にはわからないが、夢には匂いがあって、悪夢は甘い匂いがするらしい。
バクの好きな匂いだから人間にとって、と考えるとわからないが。
クリスマスイブの夜。
悪夢を見ている子供たちの家に行って、悪夢を食べるのだ。
イブの日以外にも、仕事をすることはあるが。
魔法の橇は、空を飛ぶ。
何が引っ張っているわけでもないが橇は進む。モコとムク──こちらはもう1匹のバクだ──はわたしの隣に座っている。
ムクは食欲旺盛なオスのバクだ。
1日に何人もの悪夢を食べることが出来る。
多い日には20人もの悪夢を食べた。
わたしが担当しているエリアで、数多くの子供たちが、悪夢を見ているという事実は、悲しものだが。
「キュー」
モコが鳴いた。
他のバクは知らないが、モコはこう鳴く。
その声を聞き、橇は降りていく。
とある1件の家の屋根に降りる。
わたしが先に橇から降りてモコとムクを降ろす。
モコが悪夢を見ているであろう子供の部屋を探す。
その部屋の屋根の上に立って体を少し揺すると、モコは部屋の中に入っていった。
わたしはムクを抱え、モコが消えたあたりに立つ。
「よろしくね、ムク」
ムクが腕の中でモコと同じように体を揺すった。
わたしも一緒に、部屋の中へと入る。
モコは既に悪夢を食べていた。
部屋に降り立つと同時、ムクが腕から飛び出し悪夢を食べ始める。
小さな女の子の部屋だった。
ベットの中でうなされている女の子。
バクがその周りをうろうろと動いて、悪夢を食べている。
女の子の周りに見える赤色の煙が、バクが好む悪夢だ。
全てなくなったら、完了。
別の家に行く。
モコは少し食べただけでわたしのところへ帰ってきた。
ムクはまだ食べている。あともう少し。
数分後、赤い煙は消えた。
ムクが近寄ってくる。
「じゃあモコ、よろしく」
登るのは、モコと一緒だ。
屋根に上がって、橇に乗る。
モコが次の悪夢を探し始める。
橇を飛ばす。
夜が開ける頃、わたしたちの仕事は終わる。
モコもムクも、満足そうな顔をしている。
「良かったね、今夜もいっぱい食べられて」
わたしからすれば、少し悲しいことではあるのだが。
思いながら、2匹を撫でる。
「キュー」
「ム〜」
ムクの鳴き声はこれだ。
「お疲れ様。また明日ね。おやすみ」
日本で活動出来るのはイブの夜と決まっているから、2匹が寝ている間に、場所を移動する。
次は北の方へ。
「じゃあ、また。来年」
もう少し、悪夢を見る子が、少なくなると、いいのだけれど。