これは、世の中が知ったら許さないだろうけど俺だってアイツが許せないんだよ。
ダンジョンへ行った帰り道。
「それにしても、この脱出の石は何なんだろうな?」
「さぁ・・・僕には分かんないな・・・」
「私、知ってそうな人を知ってます。」
「知ってそうな奴って誰だよ。」
「私の寮の寮母さんです。寮母さんは昔、ギルドの職員でしたので知識は豊富だと思いますよ。」
あいつ、昔はギルドの職員だったのか・・・
「じゃあすぐに・・・」
「でも寮母さんはお年寄りですからこの時間だと寝ていますよ。」
「なんだよ、期待して損した。」
俺は心底がっかりした。
「良いじゃないか、明日にでも話を聞けば・・・」
「そうですかそうですか、じゃあさよなら!」
「はい、さようなら!」
こうして俺は、ファンナと別れた。
「さてと、俺の情報は以上だ。」
「次に僕の情報だけど、これが有力でな。」
「有力?」
「明日、ファンナの親父がモンスターの討伐に行くらしい。ファンナはその見送りをするそうだ。」
「なるほど、じゃあやる事はただ一つだな。」
そして俺とケンは、宿屋の一室を後にした。
「なるほど、壊れない脱出の石かい・・・」
翌日、俺とケンは寮母に話を聞きに行った。
「これがそうなんだ。」
俺は寮母に脱出の石を渡した。
「これは・・・脱出のオーブじゃないか!」
「「脱出のオーブ?」」
「簡単に言えば脱出が何度でも出来るアイテムさね。」
「それはレアなアイテムだな!」
「イッサ、お前は運が良いな!」
俺とケンは歓喜の声を上げた。
「でも・・・壊れない物をどうやって使うんですか?」
「オーブは単体では効果を発揮しないんだ、石版にはめなければ使えない。」
「「石版?」」
「これが石版だよ。」
寮母はガラクタ入れの様な所から石版らしき物を出した。
「ちょっと脱出のオーブを貸してみな。」
寮母にそう言われ、俺は脱出のオーブを渡した。
「これを、ここにはめて・・・」
寮母がオーブを丸い穴にはめると、石版の模様が光り始めた。
「「あれ?」」
気が付くと、全員寮の外に出ていた。
「この通り、オーブを石版にはめると自動的にオーブの効果が発揮するんだ。」
「なるほど、これは便利なアイテムですね。」
「婆ちゃん、その石版頂戴!」
「残念だけど、この石版は私の物だからあげる事は出来ないね・・・オーブなら返すけど。」
そう言いながら、寮母はオーブを俺に返した。
「なんだよ・・・石版ってどこで手に入るんだ?」
「高級な店で買うか、ダンジョンで見つけるかだね。」
「どっちもくたびれそうだな・・・」
「まぁ、頑張りな。」
はいはい、頑張らせて貰います・・・
「そうだ、あの子の悩みについて・・・あ、言っちゃいけなかったね。」
「え・・・?あぁ、ケンは事情を知っているから大丈夫だ。」
「そうかい・・・じゃあ、あの子の悩みについてはその後どうなったかい?」
「多分、今日で決着がつく。」
「どうやってだい。」
「今日はアイツの親父がモンスターの討伐に行ったんですよね?」
「そうだよ、あの子は親父さんの見送り・・・まさか!」
「婆ちゃん、この事は秘密にしてくれないか?」
「僕からもお願いします・・・」
「分かったよ、寧ろ言わない方が良いのかもしれないね・・・」
俺達は父親を見送ったファンナと合流して、今は昼ご飯を食べている。
「いやはや、美味しいな・・・またあのクソ豚ども出て来ないかな?」
「出て来る訳ないだろ・・・あの出費はあいつらには痛すぎる筈だ。」
「私が住んでいる寮にその内の一人がいますけど、大分ひもじい生活をしていましたよ。」
「話を聞かなかった罰だな、ハハハ!!」
こんな風に楽しく話しているが、俺の頭の中は色々な物が混ざり合っていた。
「あ、ここにいましたか!!」
そして、その時はついに訪れた。
「貴方は・・・お父様の家に使用人さんですよね?」
やはりアイツの関係者か・・・
「ファンナ様!アレス様が・・・アレス様が・・・」
「お父様が?」
「毒を喰らって運ばれたんですよ・・・!」
「何ですって!?」
ファンナは使用人に話を聞いて、すぐにアイツの元へ走った。
「イッサ、僕たちも行くぞ!」
「あぁ、分かってる・・・」
「お父様・・・」
ファンナの親父が運ばれた病院へ向かうと、本人は今にも死にそうな状態だった。
「早く私の父を治してください!」
ファンナが泣きながら医者にそう言った。
「それが、解毒薬が全く効かなくて・・・」
医者が申し訳なさそうに答えた。
「じゃあ私の父はどうなるのですか!?」
「最善は尽くしますが・・・このままだとアレス様は・・・」
「嫌です!私の父を治してください!お願いします!」
「ファンナさん、落ち着いてください!」
ケンがファンナを落ち着かせようとしたが、本人には全く聞こえていない。
「お父様!!お父様!!お父様!!」
「いい加減にしろ!!」
俺はファンナに大声で怒鳴った。
「そんな風に叫んでもお前の親父の毒は治らないぞ!!」
「でも・・・でも・・・」
「どうせお前には何も出来ないんだから静かにしろ!!騒いだらそれだけ医者の最善が無駄になるぞ!!」
ファンナは俺の言葉を聞いて、涙を止めた。
「分かりました・・・私、静かにしています。」
こうしてファンナは、使用人と共にファンナの親父が搬送されている部屋を後にした。
「ありがとうございました・・・これで最善を尽くす事が出来ます。」
医者から感謝の言葉を貰ったが、俺の耳には届かない。
「あなた方も病室を後にしてください。」
「分かりました・・・ですが、少し待って貰います。」
ケンがそう言った直後、医者の目の前で手のひらに力を込めた。
「グゥ・・・」
すると医者は、眠ってしまった。
「これで良し、後はイッサに任せる。」
「あぁ、分かってる・・・」
俺は、ファンナの親父が寝ているベッドまで歩いた。
「さてと、俺の声が聞こえるか?実は俺達はお前の毒を治せる薬を持っている。」
そう言って俺は、ファンナの親父に薬入りの注射器を見せた。当然、親父は注射器を取ろうとしたが・・・
「おっと、タダで渡す訳には行かないな。」
俺は注射器を取らせなかった。
「安心しろ、別に俺達は金が欲しい訳じゃ無い。たった一つ、俺の言う事を守れば良い。」
「な・・・んだ・・・?」
ファンナの親父は力を振り絞って声を出した。
「ファンナは今でもシスターになりたいんだけどさ・・・お前が生きている限り、アイツをシスターにしなければ解毒剤を打ってやるよ。」
俺は、鬼畜で外道な交渉を迫った。
「な・・・んだと・・・」
「どうだ、簡単だろ?」
「この・・・げど・・・うめ・・・」
「外道?それはお前も同じじゃないのか?」
「な・・・に・・・?」
「だって、ファンナがお前にシスターになりたいと言ったら教会を潰したんだろ?夢を叶えられる場所を潰すなんて外道だと思わないのか?」
ファンナの親父は黙り込んだ。
「お前は、娘を、シスターにしたくないんだろ?だったらシスターにするなと言う俺の約束なんか守るのは容易いだろ?」
ファンナの親父は何も言い返さない。
「後、この解毒剤には少しの間の記憶を失わせる成分も入っているから俺と会った事も毒を受けた事も忘れて罪悪感とかは感じないからそこの所は安心してくれ。」
「ファ・・・ン・・・ナ・・・」
「最後に愛する娘を呼ぶか、でもお前の言葉は届かないだろ。」
「す・・・・まな・・・い・・・わたし・・・は・・・」
「もう一度聞くぞ、お前の娘をシスターにしない代わりに解毒剤を打つか?」
「うた・・・な・・・い・・・」
それが、ファンナの親父の返事だった。
「そうか、だったらお前に用は無い。」
俺はケンに医者を起こさせ、部屋を後にした。
「・・・今頃、ファンナさんは親父さんが死んで悲しんでいるかな?」
「そうじゃないか?」
「僕とお前が、夜中に強力な毒を持っているモンスターを操ってファンナさんの親父さんに襲わせたんだよな・・・」
「・・・そうだな。」
「これでファンナさんはシスターになれるかな・・・」
「邪魔な親父がいなくなったから、多分なるんじゃないのか?」
「・・・なぁ、イッサはこれで正しいと思うか?」
「少なくとも、俺は正しいと思ってる。もちろん世の中は間違ってると言うだろうな、だけど俺は許せないんだ。自分が築いた名誉を守るために何年も娘を苦しめた最低な父親をな・・・」
こうして、ファンナは苦しみから解放された・・・