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酔いつぶれた四十二歳の男の思い出

 20年前。オランダ。ハーグ。


「我らは魔術師。神に選ばれし力を授けられた、地上の支配者である!下等な人間どもよ、跪いけ!!」


 ソロモン七拾七柱を名乗る魔法貴族が欧州で武装蜂起した。いや、この表現は正しくないかもしれない。

 彼らは銃を持たず、『魔法』という、普通の人間が扱えない特別な力を持ってとりあえずヨーロッパ全土を蹂躙した。

 ハーグに現れた魔術師は、毒霧を操る力を持っていたという。


 五カ月後。ニューヨーク。マンハッタン。


「フフフ。我は雷光の貴公子。私にあったのが運のツキだ。その不幸を思い知りながら」


 雷光のどうたらは右手を突き出した。

 次の瞬間、どうでもいいやつの右腕全体が激しい炎に包まれる。


「ほげええええええええ!!!う、うでが!おれの、うでが、ウッディが、ボノボノダァアアアアアアアアアアアアアー!!!!」


 右腕を燃やしている男の前方に、作業用重機に戦車砲をとりつけた不格好なロボットがあった。

 そこから一人の学生服を着た少年が降りてくる。


「た、頼ミュッ!!い、さお・・・!医者を読んでくれっ!!!」


「楽になりたい?」


「あたりまえだろうっ!??」


「じゃあキドニー(親切)だ」


 少年は拳銃を構えると、魔術師の頭蓋骨を一撃で撃ちぬいた。


「魔術師は全員敵よ。あんた甘すぎ」


 グレネードランチャーをリロードしながら、一人の私服姿の少女が少年に近づいてくる。


「魔術師の娘の君からそんな発言が出るとは思わなかった」


「あたしならガソリンかけて火をつけるわ」


「それはちっともキドニーじゃない」


「?キドニーって殺すって意味じゃないの?」


「この戦いが終わったら英語の勉強をしよう。僕が教える」


「魔術師との戦争が終わる前にそんな話してどうするわけ?」


「問題ない。この戦争は人類の勝ちで終わる」



「先生。先生。そろそろ店仕舞いにしたいんですがよろしんですかね?」


 『味伝奇』の店主に起こされ、十六才という名の四十二歳の中年教師は目を覚ました。


「ああ悪いな。勘定を頼むわ」


 財布を出しながら四十二歳の十六歳という名の教師は立ち上がる。


「寝言でニューヨークがどうたらとか言ってましたよ。二十年前の勝ち戦の夢でも観てましたか?」


「勝ち戦?」


「だってそうでしょう。先生方の部隊が活躍したおかげで人類が勝利したようなものなんですから」


「人類の勝利ねぇ」


 財布から一万円札を出して、十六才という名の飲酒可能年齢である四十二歳の教師は言った。


「人類諸国連合に戦略的勝利をもたらした。ってことは俺達の部隊が一番戦術的に敵兵を殺しまくっただけなんだぜ?」

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