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一方その頃

 鯖江達の勝利が確定した直後のことである。

 十六才という名の、四十二歳の働き者の教師は教師は、結果として鯖江達のように直接魔術師とは交戦しなかった。だが、彼にはやるべきことがある。その為に生存者たちと別れ、ある場所へと向かう。

 めくれ上がった道路のアスファルト。

 倒壊したビルディング。

 炎上する樹木。

 潰れた自動車。

 それらは魔術師が乗っていた4-XHによってもたらせられた被害である。けが人はもちろん、死亡した人間もいるだろう。

 その大半はほんの数時間前まで十六才が会話をしていたであろう彼の教え子たちが占めている。

 そのために十六才は関係各所との速やかな調整を余儀なくされている。

 具体的には警察、消防、役所、世界統一軍日本統括本部。

 その中でも十六才が早急にせねばならないのが迅速な一部情報操作である。そのために榛名第三高校のサーバーを利用せねばならない。

 止みかけの小雨の降る中で足早に十六才は学校を目指す。

 ふと、道端で一人の執事服の男が四、五名の警察官に取り囲まれていた。


「大人しくしろ!あやしい奴め!」


「わ、私はあやしくなどアリマセンッ!!」


「嘘をつくなっ!デカい銃を構えて電信柱の上に立っているような男のどこがあやしくないと言うのだっ!!?」


 少々。というより大変気になったので、十六才は事情を尋ねてみることにした。


「あんたらいったいなにをやっているんだ?」


「君、近づいちゃいかんっ!」


 警官の一人に、十六才は忠告された。


「妙な恰好をした男が、デカい鉄砲を持って電柱の上に登っていたんだ!魔術師解放同盟の連中かもしれん!」


 確かに。その警官に囲まれた男は頂戴なスナイパーライフルを背負っていた。


「私は魔術師などではありませんっ!!」


「じゃあその銃はなんだ?玩具か?まさか街中でサバイバルゲームでもしていたと言うんじゃないだろうなっ?!」


「この狙撃銃は本物ですっ!主に学校の方を目標にしておりましたっ!!」


「本物の狙撃銃だとっ?!」


「学校を狙っていただとっ?!」


「やはりこいつは魔術師!テロリストだっ!!」


「国民の生命と安全を守る警官の使命として、貴様を拘束するッ!!」


「ひいいぃっ!!ですから私は魔術師でもテロリストでもないとっ!!!」


「なぁあんたら」


 だいぶ盛り上がっている警官隊に再び十六才は声をかけた。


「あんたまだいたのかっ?」


「ここは危険だっ!」


「俺達に任せて、アンタは早く逃げるんだっ!!」


「なに、心配いらねぇさ。こいつを豚箱に放り込んだらみんなで一杯飲みに行くからな」


 十六才は雨で濡れた背広の内ポケットから身分証を出した。


「榛名第三高校教員十六才庸平?」


「そのテロリストさんが狙っていた学校の先生でな。要は関係者だ。ちょっとそいつに聞きたいことがあるんだが、いいか?」


「は、はぁ」


 執事服の男の素性は知っている。生徒の一人の関係者のはずだ。


「なぁあんた。電柱の上でスナイパーライフルを持っていたそうだな」


「は、はい」


「なんのために」


「もちろん御嬢様の援護をする為です!」


 はっきりとした声で執事は答えた。

 十六才は執事の乗っていたであろう電柱を見上げた。雨は止みかけている。

 魔術師の乗った4-XHと生徒と生き残りが交戦していた頃はもう少々強く振っていたはずだが、それでも地上にいるかはずっと遠くまで視界を確保できただろう。


「お前、あそこから高校まで見渡せたのか?」


「はい」


「周りの光景も見渡せたよな?」


「はい」


 ここからが重要だ。


「偵察用ドローン。ちっこいヘリコプターが見えたか?」


「はい」


「お前スナイパーライフル持っていただろ。なんで撃ち落とさなかった?」


「狙われたのは御嬢様ではありませんでしたので」


 それを聞いて、十六才は警官隊に向き直った。


「こいつは魔術師解放同盟の人間かもしれん。凶悪なテロリストの疑いが濃厚だから拘束して入念な取り調べをしてくれ」


 十六才に言われ、警官隊は一斉に敬礼をした。


「はっ!」


「了解であります!」


「そんな!誤解です!」


「犯罪者はみんなそう言うんだ!!」


「選ばせてやる!拳銃の弾とカツ丼!どっちを食べたいかをな!!」


 スナイパーライフルを背負った執事服の男は、警官隊に引きずられていった。

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