ドウルスレイヴ(3)
振動が近づく。
周囲の建物は壊さずに。車道を歩いて。
驚いたことに4-Xは道路に停車してある自動車を踏みつぶすことなく器用に避けながらイロナに近づいてきた。
これなら学校の教練で減点されるような事はないだろう。乗っているのが学生ならば。
4-Xはイロナの前。倒壊した学習塾ビルで止まった。
立膝で座る。操縦者は降りてこない。
代わりに右手の人差指親指をイロナの方に。
伸ばさない。
鉄の巨人の指は彼女のすぐそばに出来つつあったヨーグルト状の湖に伸びた。
そして感触を確かめるように人差指と親指を広げ、縮める。
中指を利用して彼女の股間から溢れ出る生暖かい液体をすくい取ると、巨人は彼女の長い髪にべたべたする白い液体を擦り込んでいった。
「う、うあ、うわわわわわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
もう、泣いてもいいだろう。
必死に逃れようと身をよじり、体を動かそうとする。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら。
まともに動くのは両手の指だけ。その指は自分の胸を掴んだ状態でエクゾが故障している。
「あ、ういひいいわあいいいいいいいいいいいひひひいひいい!!!!????」
そういえば鯖江と同居しているせいでここ一週間ほどオナニーしていなかった。
いや自分は一体何を考えているんだ。なぜ自分は鼻汁と涎を口から零しながら必死に自分の乳房を揉み扱いているんだ?
もっと他にすべきことがやるんじゃないのか?
「わ、わらくひは、あ、あなたしゃまの、マトリョーシカ、ですぅ!どんどんちっちゃなまとりょーしょりか、つくりますうぅ!だから、ころさないでふらさないいいぃいいいいい!!!!!」
自分は、イロナ・ベニナノフは。一体何をしているんだ?
いや。何も間違ってはいないだろう。味方は全滅しているんだ。
じゃあ最後の一人になった自分が生き延びるために自分ができる最善の策をするのは当然じゃないか。
羞恥心?プライド?国家の名誉?そんなもの便所に流して捨てちまえ!
「お、おねがいしましゅう!なんでもしますから、わたくしに、できることでしたらなんでもいたしゅましゅうううううっっっ!!!!だきゃらこりょしゃなぃヴぇくりゃちゃああああぃいいいいいっっつつう!!!!!!」
「なら、今のは全部演技だったと言え」
4-XHから、凍えるような声が聴こえた。
あまりにも冷えた声だったので、イロナは自分の胸を揉みながら哀願するのを止めた。
金属と金属をひっかくような、音がした。
そうだ。金属を引っ張るような、音。
何かを切るような音がした。
何かを引きちぎるような音がした。
そして、4-XHの頭部を蹴り飛ばし、彼女は姿を現した。
「今のは全部演技だ。お前は強い。強くて。賢くて。だから。私が。こいつのうなじをコンバットナイフで殺いで、切り落とす隙を用意する時間を造り出す事ができた」
4-XHのどでかい頭を、金的するように蹴飛ばしたのは鯖江だった。彼女はもうこの世にはいないはずだ。だってこの鉄の巨人に踏みつぶされて、今し方ペッシャンコになったはずじゃないか。
「鯖江さん。あなた、死んだはずじゃ・・・?」
「死んだよ。こいつに踏まれて。道路下3メートルの下水管までめり込んだ。その後下水の中を200メートル以上泳いだ」
「200メートル?息継ぎも、酸素ボンベもなしに?」
「息継ぎならしたさ。ネズミの巣の中で。ドブネズミどもは毎日こんな美味い空気を吸ってやがるのか!ああ、空気が美味しいぜっ!!」
ドブ水の中から体温も下がったままだろうし、ネズミの巣の中なら一瞬だけ酸素消費量が増えただけだ。
4-XHのターレットセンサーが捕えることができたかもしれないが、それに搭乗している操縦者が気づけるかどうかは別問題だ。
「言え!さっきのは演技だと!私が生きていて、この背中からの不意打ちを成功させるための演技だったとっ!!」
コンバットナイフが折れた。だからなんだ。エクゾの出力任せで、腕を切断された4-XHの首に突っ込み、電気ケーブルを引きちぎり、金属板を引きはがす。
「そ、そうよ!全部演技ですわっ!貴女一人では無理でしょうから、私が手伝って差し上げましたのよ!感謝なさいっ!!」
鼻水をすすり、泣きながら、イロナは微笑みかけた。
「よおおおおおおおおくいった!!!!お前はハリウッドじょゆううううううううううになれんぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
4-XH上部の装甲がめくれる。操縦席内の人間が見えた。
「さぁ!今度はてめぇの番だ!助兵衛魔術師野郎のチンポを私がこの手がひきちぎ、ちぎ?」
鯖江は首根っこ掴んで持ち上げた操縦者の、陰茎と睾丸を生きたままねじ切ってやろうと思っていた。
操縦者は全身密着型のエクゾを着用していた。その胸にはわずかながら、膨らみがある。
触ってみた。やわらこい。
防弾チョッキとか、そういんじゃない。
「ちんぽない・・・?」
4-XHの操縦者の胸を右手で掴んだ鯖江に、車両が停止する音が聞こえた。
近くの道路に運転席の屋根が壊れた軽トラックが止まった音だ。
荷台には対戦車バズーカやらガトリング砲やらが積まれている。
「スーパーの駐車場に幌かけて隠しておいた。万一のための保険ってやつだったんだが、終わったみたいだな。で、その操縦者なんだが」
「くひ、ち、ちんぽ・・」
「あん?」
4-XHを動かしていた操縦者は、黒く、長い髪の、国籍不明不特定だが極東アジア系であることは間違いない少女は笑い始めた。
「ちんぽちんぽちんぽちんぽちんぽちんぽ!ちんぽまみれになるのは、あたしだったぁああああああああああああああ!!!!」
「あー。なんつうか」
十六才はイロナのエクゾの制御装置をカットした。電圧油圧が完全にオフになり、彼女は乳房を触って自慰をする姿勢から解放される。
「イロナ。お前あの娘に人工呼吸してこい」
「なんでですの?」
「お前の得意スキルだと思う。精神的人命共助ってやつは」




