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一方その頃

「しばらく。雨宿りさせてもらうよ」


 『味伝奇』に懇篤な老紳士が入店した。老紳士は黒いコウモリ傘を畳むと、いつものようにカウンター席につく。


「いらっしゃい。なんにしましょう?」


「そうだな。今日は寒いから温かい酒を頼む」


「わかりました。おつまみは?」


「鳥料理で」


「はい」


 『味伝奇』の店主は注文を受けると老紳士の為にレモン梅酒を用意した。さらに、ツマミのニワトリのオリーブ炒めの調理に取り掛かる。


「世の中には、実に色んな事を考える魔術師がいるものだな」


「また二十年前の思い出話ですか?」


 フライパンを火にかけながら店主は老紳士に問うた。


「今の話をしている」


「高校を襲ってきたなんとかという魔術師の事ですか?」


「違う。今襲ってきている魔術師の話をしている」


「今襲ってきている魔術師?」


「我々魔術師の能力は大気中のマナフュル粒子とやらに強く制限を受ける。特に雨の日は自然にそれが増大し、普通に魔術を使う事でも失敗することもある」


「ええ。さらに世界統一政府軍はマナフュル粒子を毒ガスのように撒くんですよね。云わば魔術師だけを選んで殺す化学兵器だ」


「だが、その世界統一政府軍の基地や施設から、兵器を盗んで使う魔術師がいてもいいわけだ」


 老紳士は背中に雨粒のついたコートのポケットから双眼鏡を取り出した。


「便利な道具だと思うよ。魔力を使わずととも遠くにあるものが見える。近くの学校の生徒を巨大なロボットに乗って殺している魔術師がいたな。気配を探ってみたが乗っていたのは魔術師だ。ロボットを動かすのは電気だの油だのだ。マナフュル粒子で爆発はしないもので動いている。その中で、魔術師が安全に普通の人間と戦っても、別にかまないわけだ」


「どうなさるおつもりで?」


「私もかつて人間に刃を向けた身だからね。彼らが戦いたというのであればどのような手段であっても止める理由はないな。あと店主。店の換気扇を最大にしておいてくれ」


「換気扇?」


「店内のマナフュル粒子を減らしておくんだよ。もし流れ弾がここに飛んできたら私の術で君と、君の店の魔法を護る事ができる。そのためにきたんだからな。ところで、酒のツマミはまだかね?」

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