零式陸上偵察機
雨は今だ降りやまぬ。
十六才の乗った戦車は予定通り児童公園へ。
イロナは囮役として大道りの方へ。
そして鯖江は対戦車バズーカを抱え、脇道に入っていった。
ちなみにイロナは有効射程距離が1100メートルもあるという支援機関銃を背中に背負っている。
口径は12.7ミリ。単純計算で25ミリマシンガンを持った4-XHの二分の一の
攻撃力しかないという事だ。
向こうははカメラに当たらねばまともにダメージは通らず、こちらは一発当たれば即死である。
業界用語言うオワタ式というモノらしかった。
「う~寒い寒いよぉ~」
スーツの保温機能を切ったため、雨の冷たさが体の芯まで浸み込んでくる。
4-XHのメインカメラを欺き、『死人』として生きたまま歩き回るためとはいえ、このままでは本当に凍死してしまいそうだ。
試作品の紐エクゾだけを着用したほぼ全裸の姿で体を震わす鯖江の目に、道端の自動販売機が映り込んだ。
鯖江は深く考えもせず、千円札の入った巾着を用意した。
弾薬ケースの中に放り込んでおいたものだ。
元々、友人達と共に昼食を買うお金に用意しておいたもの。
「暖かいのが、いいな」
三段あるうちの一番下の段。左から四番目のプラチナコーヒーを購入する。
当然ホットだ。
「あぁ~、生き返るわ~」
喉から胃袋に入った珈琲が、肺に暖かい空気を送り込み、心臓に熱い血潮を送り込んでくれるような、そんな気分だ。
ゆっくりと砂糖とミルクの味を堪能し、コーヒーの空き缶を屑籠に捨てた後、鯖江は気づいた。
500メートルほど後方の十字路に、4-XHが立っていた。
が、鯖江に対し、横顔を見せていた4-XHはそのまま大通りの方に向かい、再び歩きはじめる。
「み、見つかってないよね。離れてたし、見つけられてたら、すぐ攻撃してくるだろうし・・・」
鯖江は慌てて近くの自動車の陰に隠れた。
「コンビニでパンかコーヒー買っておけばよかったかなぁ」
教え子たちに文字通り裸同然の姿で最前線に送り出した四十二歳の十六才庸平という男は戦車の上でそう呟いた。
この戦車は二人乗り。運転手と砲手がいないと戦えない。
ただ、自動装てん装置があるので、このままでも固定砲台として使用することは可能だ。
44式戦車は砲塔を敵が来るであろう大通りの方を向け、いつでも砲撃態勢にある。
周囲にあるには二階建ての家。同じくアパート。厳密には鯖江の学生寮である。
まぁ庸平は知らなかったが。
さらに周囲を見渡す。いずれも二階建て以上の建物ばかりだ。道路で直線距離にならなければ、この戦車の姿は見えないだろう。
後高いものといえば、児童公園にある針葉樹と、ヘリコプターといったところか。
降りしきる雨の中、ぷるぷると振動しながらホバリングし続ける1メートルのヘリコプター。
「ヘリ?」
違う。全長1メートルに満たないヘリがこの世にあるものか。
「しまった!ドローンかっ!!」
ドローン。それはガイア社が開発した小型無人戦闘支援機だ。
市販のリモコンヘリに武装を施したようなもので、偵察、射撃などの上空支援を行う。
カメラのついたプロペラのような構造をしており、装弾数が少ないこと、風速が強い悪天候時に使用不可能な事を除けば特に目立った欠点もない。テレパシー能力者でなければ操縦できないという事もない。本来は歩兵用の兵装である。
ただし、それらを4-XHのような二脚戦車が使ってはいけないということは、ジュネーブ条約にも書いてない。
そもそもドローン自体には殺傷能力はないのだ。
ただ、このドローンに一発だけ取りつけられた対戦車ミサイルは、真上から十六才の乗った44式戦車を直撃した。




