一方その頃
台風を想起させる激しい雨に加え、上流にあるダムが決壊したことにより、川が荒れ狂っていた。
氾濫した河川の堤防周りには周辺の基地から災害派遣で送られてきたST-3二脚戦闘車両が軽く十機は見える。
「災害派遣は人命救助でしょ?どうしてあんなガキ共にやらせるんですか?」
「ガキ共だから、だよ」
下士官の疑問に、上官はこう答えた。
「水害は鉄砲の弾なんて撃ってこないだろ?でも俺達が戦っている魔術師共は鉄砲だの殺傷力抜群の攻撃魔術をバンバン撃ってくるわけじゃないか」
「そうですね」
「だからそういう敵がいない状況で、無事に人命救助もできないような連中は戦場に立たせられん。そういう軍上層部の判断なんだと」
「お偉いさんの考えねぇ」
「それにあのガキどもは実戦経験済みだそうだ」
「本当ですか?」
「先週末に高校を狙った魔術師のテロがあったじゃないか。噂じゃそれをたった一人で撃退したエースパイロットがいるそうだぞ」
「ひぃーそいつはすげぇや」
雑談をそう締めくくると、現場指揮官は学生達の集まるST-3の方に向かう。
「おぉーい。エースパイロットってのはどいつだ?」
「エースパイロット?」
学生たちは顔を見合わせる。
「先週学校を襲撃したテロリストの魔術師をたった一人で撃退したやつだ」
「あー。それたぶん俺っス」
雨合羽を着た工作が手を挙げた。
「お前整備員だろ。お前じゃない」
「パイロットは一応私ですけど」
瑠璃が自分を指さした。
「お前か。よく頑張ったな。勲章も出せないし階級も上げてやれんが褒めてやる。お前は自分を誇りに思え」
「あの。私は操縦席できゃあきゃあわめいていただけで。実質何もしてないですし」
「誰だってそうなんだ。初陣ってやつはな。よし。今回の人命救助作戦はエースパイロットの彼女が行う。他の者はエースの操縦をしっかり見学して勉強しろよ!」
『はいっ!!』
河川敷に集まった生徒達は皆揃って元気よく返事を返した。
「まずあの半壊した橋が見えるな?」
増水した川の濁流によって寸断され、橋脚と橋の中央部分を残して陸地から切り離された惨めな橋の姿があった。
いや。橋の中央に自動車が一台取り残されている。
「あの橋の上の自動車にはまだ人が残っている。彼らを救助するのが我々の任務だ。わかるな?」
「はい。でもどうやれば?ST-3には水中適性はありません」
「ワイヤーを射出し、橋までロープをひっかけろ。そのロープを伝って救出人員が到達し、取り残された人間を救出する。簡単な任務だ」
「はい。わかりました」
「あのう。その救出部隊は?」
工作が尋ねる。
「お前がやれ。整備員」
瑠璃の乗るST-3からワイヤーショットが発射される。
金属製のロープが川の中に残された橋脚部分にしっかりと引っ掛かると、工作は降りしきる雨の中を命綱をつけて自動車に向かう。
しばしして、工作は少年一人と犬一匹を体にくくりつけて戻り始める。
現場指揮官は尋ねた。
「少年はともかく、なんで犬を連れてきた?」
「乗っていたのは母親と、赤ん坊と、その子と、犬です。母親は赤ん坊と車に残っています。その少年が犬と一緒でないと来ないと言ったので犬を連れてきました」
「そうか。次からは最初に赤ん坊を連れてこい。ではもう一度行け」
工作は現場指揮官の命令されると再び荒れ狂う川を越えていく。
「まだまだだな。まぁ整備員だから仕方ないと言えばそうかもしれんが」
「そんなことありませんよ!工作は魔術師相手に一歩も引かなかったんですからね!」
「そうだな。今度魔術師が来た時は君たちに守ってもらおう」
「任せてください!私が、いいえ。私達榛名第三高校の生徒が悪い魔術師からみんなを護ります!!」
操縦席の瑠璃は、自分の代わりに魔術師を仕留めた鯖江達の顔を思い出しながら固く誓いを建てた。
「期待しているよ。未来の英雄諸君」




