一方その頃
鯖江の学生寮のすぐ近くにある児童公園で、温厚そうな老人は日向ぼっこをしていた。
いい天気だ。
実にいい天気だ。雲一つない。
家に帰るころには、洗濯物も、外に干しておいた布団もよく乾いている事だろう。
隣のベンチでは子供達がようかいモンスターとかいうゲームで対戦プレイをしている。
せっかくのお天気なのだから子供らしく体を動かす遊びをしなさい。
一昨日そう言ったところ、ひーろーごっこにつきあうことになってしまった。
今日はやめておこう。
彼がそのように考えていると、凡庸な集団が児童公園に入ってきた。
中年女性。老婦人。老人。そこらへんの近所にいそうな人々であった。
「いったい何事ですかな?」
温厚そうな老人は集団に声をかけた。
「町内会の寄合で防犯対策をしようということになりましてな。この児童公園にこういうものでもまこうかと」
町内会長らしき人物が差し出した缶には、『マナフュルスプレー屋外用』と書かれていた。
「なになに。『魔術師のいそうな茂みに噴霧してください。天候にもよりますが、効果は一ヶ月ほど持続します』ほうほう。こいうものもあるのですか」
温厚そうな老人は感心した表情を浮かべた。
「私も参加しましょう」
「やってくれますか」
「ええ。罪もない子供たちを襲う無差別テロを引き起こす魔術師は悪です。これでそういったテロから子供達を護れるなら素晴らしい」
温厚そうな老人は町内会長達と共に児童公園で『マナフュルスプレー屋外用』を噴霧し始めた。
町内会長は滑り台に向かってぷしゅー。
「あ、町内会長。それはいけません」
「なんですって。あなたもしかして実は自分は魔術師だ。だなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そうじゃなくて。スプレーの注意書きのここ」
「なになに。『犬小屋には噴霧しないでください』?」
「遊具のペンキが剥げるかもしれません」
「そうですね。じゃあ植物だけにしますか」
「そうしてください」
老人たちは注意書き通り植物のみに『マナフュルスプレー屋外用』を噴霧する。
花壇に向かってぷしゅー。
茂みに向かってぷしゅー。
一際高い木に向かってぷしゅー。
どしゃり。
寿命を迎えた蝉のように、木の上から背中にスナイパーライフルを背負った執事服の男が落ちてきた。
「ありゃま」
「なんだいおまえさんは」
「あやしいやつじゃな」
「もしや魔術師ではなかろうな」
「魔術師?いえ。私はあくまでも執事でございますよ?」
樹上から落ちてきたスナイパーライフルを持った男はそう否定した。
「昼間からパーティに行くような恰好をしておるな」
「ものすごくあやしいのう」
じりじりとにじり寄る町内会の御長寿の皆さん。
「わ、私は。断じてあやしいものなどでは。ありま、せぇえええ~~~~んんんぅんん!!!」
「逃げた!」
「追え!」
「いや、逃がすものかっ」
町内会の皆さんは手にしていたスプレー缶をぽいぽいぽ~いと投げる。
誰一人として執事服の男に当たらない。
スプレー缶はいずれも児童公園の土の上に転がり。
そのうち一つを執事服の男が踏んづけた。
「あっ」
執事服の男は滑って転ぶ。
そのまま公園沿いの道路までヘッドスライディング。
「うわっと!」
ちょうど自転車で巡回中だった交番の巡査の眼の前に飛び出した。
「おまわりさん、捕まえとくれ~!」
「悪の魔術師だ!!」
「逮捕じゃ!逮捕するんじゃ~!!」
「なに。悪の魔術師だと?貴様それは本当かっ?!」
「違いますっ!私は断じて悪の魔術師などではございませんっ!!」
「うそつけ、!ではその背中のでっかい鉄砲はなんなんじゃっ!!?」
「このスナイパーライフルでございますか?これでちょっとあちらの榛名第三高校にいた不審な男を狙撃しようかと・・・」
「学校を狙撃するじゃと?!!」
「やっぱり怪しい人物だ!」
「テロリストだ!お巡りさんつかまえとくれっ!!」
「銃刀法違反と未成年者略取でとりあえず逮捕だっ!!」
「違います!未成年者略取は誘拐罪です!」
「じゃあお前を殺人罪でタイホだっ!!言い訳は交番で聞くぞっ!!!」
「私は無実でございますっ~~~~~~!!!!」
逃亡を図ろうとする執事服の男に、町内会の皆さんが次々と体当たりをかましていった。




