4/6 校庭
桜色のスカート。白のブラウスにブルーの上着を羽織った私服姿の鯖江が学校で目にしたものは、校庭で派手に横転したST-3二脚戦車であった。
「ちょっと!あんた何考えてのよっ!こっちは命かけて二脚操縦してんのよっ!!」
「片腹痛いですわねっ!命を奪われかけたのは私の方ですわっ!!」
「まぁまぁ二人ともおちつ」
止めようとした作業つなぎを着た男子生徒がゴスロリレオタードを着た女に片手で放り投げられた。彼は鯖江の足元まで転がってくる。
「生きてます?」
「・・・なんとか」
鯖江は男子生徒を起こしてやった。
「何があったんです?」
「あいつらに直接聞いてくれ。俺はしばらく休む」
それだけ言うと、男子生徒は校庭の土のベッドに倒れ、目を閉じた。
横転したST-3のそばにはイロナと、ショートヘアーの学生服の女生徒がにらみ合いを続けている。
「あ、あのーすみませんー」
鯖江はおそるおそる声をかけた。
「鯖江さん!そのままこの女の背後に回り込みなさい!挟み撃ちにしますわっ!」
「くっ。仲間が来たかっ!!」
女生徒は拳銃を取り出すとカートリッジを一度装填し直す。
そして安全装置をしっかり外すとなぜか銃口を鯖江に向けた。
ええい。冗談ではないぞ。
「ま、まって!話せばわかる!まずは事情を聞かせてくれませんか!あなたにだって言い分はあるはずです!」
鯖江は説得を試みる。
自分が着ているのは私服。その下には紐みたいなエクゾ。例の筋力増幅装置とやらを下着代わりに身に着けている。
が、ただの紐に拳銃の弾を止められるような芸当ができるとはとてもとてもではないが、鯖江には思えなかった。
「あたしが学校の許可貰って二脚の歩行訓練やっていたらこいつがいきなり飛び出してきたのよっ!」
「何仰いますよ!私が校庭で体を鍛えるため、ランニングをしていましたら、貴女が私を踏みつぶそうと襲ってきたんですわっ!!」
「ちゃんと避けたわよっ!そのせいで二脚(ST-3)が倒れちゃったわ!変な風に倒れたから自力で起き上がれないし!」
「だから私のせいだと言いますのっ!!何もかも他人のせいにするのは貴女方日本人の悪癖ですわよっ!!」
「あのー」
「さぁ!鯖江さん!この女に正義の鉄槌を下すために私に力を貸しなさい!」
「じゃなくて」
鯖江は地面にめり込んだST-3の腕に近づいた。
「イロナさんが私に力を貸して」
「はっ?」
「いいからこっちきて」
イロナも横転したST-3に近づく。
ST-3は体の一部が転倒の衝撃で地面にめり込んでいるだけで、ほぼ無傷のようだった。
「エクゾは電気の力ですっごいパワーが出るんだよね?だからイロナさんもこのロボットの腕を持つ」
「こ、こうですの?」
「で、もちあげて。ほい」
身長7メートルのST-3はほんの少しだけ持ち上がり、埋没していた腕が土の中から大根のように抜け、そして再び校庭に転がった。
これなら自力で起き上がれるだろう。
「二人とも。少し、頭冷やそうか?」
女子生徒は、拳銃からカートリッジを抜くと、それを鯖江に手渡した。
「いきなり銃突き尽けたりなんかして悪かったね。確かにあんたの言う通り。頭に血が上っていたわ」
「えっ。私そんなもの貰っても」
弾丸のない銃を受け取り、鯖江は困惑する。
「じゃあこれなら受け取ってくれるよね?」
女生徒は赤い女の子らしい財布を出すとそれを鯖江に渡す。
「頭がキンキンに冷えそうなジュース買ってきて」
「えっ?なんで私が?」
「それじゃあ私は紅茶をお願いいたしますわね」
「おれ、普通にコーヒーで」
「工作。あんたの分はちゃんと後で請求すっから」
「えーそりゃないぜー」
工作と呼ばれた男子生徒は寝たままぼやく。
えーと、私はどうすればいいんだろうか?
「じゃあ私の分のジュースも買っていいのかな?」
「もちろん。そのつもりで財布渡したんだし」
制服姿の女子生徒は鯖江に言った。
「私、イロナと言いますわ。普通科の一年」
「アタシは特車科の金剛瑠璃。同じく一年。なんで歩兵やってんの?二脚に乗ればいいのに」
「大砲や空爆だけでは戦争に勝つことはできませんわ。敵地に乗り込み、制圧するのは結局歩兵の役目なのですわ」
さっきまで銃の撃ちあいをしそうだった二人は笑いながら握手をしていている。
「なんですか。あれ」
「しらねー。あれじゃね。一回倒した敵が仲間になるっていう少年まんがの奴」
ぐったりとした口調で、校庭に転がったままの男子生徒は、彼は、確か工作とか言ったか。茶色に毛を染めた学生はそう答えた。
「あ、やっぱコーヒーはなしな。オロナミンとか、なんか栄養ドリンクっぽいのにしてくれよ。疲れがとれそうなの」
「わかった」




