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ドウルスレイヴ(2)

「ところでドウルスレイヴ事件ってなに?爆発事故でもあったん?」


 シイタケフライにソースをかけ足しながら鯖江は尋ねた。


「まさか貴女本気でそんな事言っているんじゃありませんわよね?鯖江さん、貴女テレビのニュースは見ないタイプなのかしら?」


 そのイロナの質問に、鯖江はこう答えた。


「見るけど。ほぼ毎日」


 イロナが視聴するニュースは、自国の国営放送かそうでなければ海外のニュース報道のみであり、鯖江が毎日視聴しているニュースは日本国内の、民法のニュース。

 それは報道内容の半分が芸能人の誰それが結婚しただのアイドルのコンサートが開かれただの海外からビックスターが来ただのという内容が占めるというものであった。


「まぁいいですわ。わたくしが改めてドウルスレイヴ事件の概要をお教えして差し上げます」


 冷蔵庫の中からマヨネーズを持ってきてトマトにかけると、イロナはそのどうるなんちゃらとかの説明を始めた。


「今から二十二年前アリゾナ砂漠においてガイア社の当時まだ試作品だったエクゾシステムの実験テストが行われましたの。参加したのは合衆国軍及びガイア社の兵士など三十二名。単なる歩行実験でしたのでなんの問題なく無事終了するはずでした。ですがそのうちの一人が音信不通となり、行方不明になったのですわ。当初、新兵器であるエクゾを他国もしくは他企業に持ち出す目的で。そのような疑いをガイア社は持ちました」


「ふーん。それがどうるなんとか事件なんだー」


 鯖江は味噌汁を呑んだ。

 あ、この豆腐うめぇな。


「実際は違いました。二週間後。その行方不明者がエクゾを着用したままの状態でアリゾナ砂漠の真ん中でミイラになって発見されましたわ」


「ミイラ?なんかとんでもない魔法を受けて殺されたとか?」


「遺体とエクゾは回収されました。死因は渇死」


「渇死?」


 カリッカリッ、のシイタケフライを齧りながら鯖江は続きを聞く。


「回収されたエクゾを調べた結果、原因が判明しました。歩行中にバッテリーを中核とした電気系統に異常が発生していたようですわね。歩いたままの姿勢のまま、被害者がラッセル氏は亡くられていましたわ。ラッセル氏がアメリカ海兵隊から派遣されていたことと、ガイア社側が米国防省の陰謀説を当初展開したことが事態をこじらせた一因でもあったようで。ともかくこの事件のせいでエクゾ開発が十年は遅れたことは事実でしょうね」


「無線で助け呼べばよかったじゃん」


「無線も電気ですのよ。筋力補助装置がすべて停止したせいで足も腕も動かせずにそのままの姿勢で砂漠で渇き死んだのでしょうね」


 イロナは千切りキャベツ、ブロッコリー、トマトすべてにマヨネーズをかけるととりあえずナスのフライから食べ始めた。


「このエクゾの動力問題は未だ根本的解決はありませんわ。誰もがスーパーマンになれそうに思えて、ちょっと配線ケーブルに傷がつけばそれだけで腕から先が、あるいは足から先が動かなくなる。着ている人間本人が無事でも。まぁ電気配線は装甲部分の内側にありますし、エクゾの耐歩兵用機銃用装甲を破る様な攻撃、戦車の大砲などを喰らったら全身まるごとなくなると思いますから心配はありませんわ」


「へーそうなんだ。あ、マヨネーズとって」


「どうぞ」

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