ドウルスレイブ(1)
その日の晩御飯。鯖江はイロナと共に夕食を取っていた。
シイタケとナスのフライに千切りキャベツトマトとブロッコリー。ご飯と豆腐の味噌汁を食べていた。
テレビは衛星放送の海外のワールドワイドニュース。イロナの希望である。普段ウディテレビのバラエティ番組くらいしか見ない鯖江にとっては新鮮というか、面白くないというか、奇抜というか。不思議な感じの内容である。
白人女性のニュースキャスターと共に日本語の同時通訳音声が流れる。
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「二十二年前アリゾナ砂漠で起こったエクゾ実験中の死亡事故いわゆるドウルスレイヴ事件の裁判において、連邦裁判所は原告側の損害賠償請求を棄却。ガイア社の勝訴が事実上確定しました。ガイア社代理の弁護士のインタヴューです」
「今回の判決により、ガイア社の正義が立証されたことになります。我が社は世界征服、いいえ。人類滅亡を目論む。邪悪な魔術師達から合衆国のみならず、この地球を、全人類を護るために日夜戦い続けています。事故死したラッセル氏には契約規定通りの補償金が支払われており、我が社にはなんら落ち度は存在しません。ガイア社は常に人類の、貴方方の味方です。ガイア社は皆さまをお守りします。今までも。今も。そしてこれからも。それが創設からのガイア社の使命なのです。宿命なのです」
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場面が切り替わり、黒人の家族がずらっ。と並んで記者会見場所に映った。
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「今回の判決は明らかな不当判決です。合衆国の人種差別は、建国以来、私達の祖先がアフリカからサトウキビを造るために連れてこられた頃からまったく変わっていません。ですが私達家族は絶対に諦めません。息子の、ラッセルの死を無駄にしないため、私達家族はガイア社と戦い続けます」
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「あの家族ずらっと並んでテレビの記者会見してるじゃん?」
ごく普通に実家でテレビを見ながら家族と会話するように鯖江はイロナに話しかけた。
「ええ。それがどうかしました?」
「あれ全部本当の家族なのかな?お金で雇った役者さんとか混じってないのかな?」
「さぁ?すべて親戚とかだと思いますわよ」
「まぁそうだよね」
「そうですわ。海外からあまり売れてない歌手が来るからといって、お金でアルバイトを雇って『見てください!何百人、何千人も歓迎する人気歌手ですよ!!』などと嘘出鱈目をテレビでねつ造放送するような国がこの世にあるものですか」
「そうだよね。そして本当は人気がないのにテレビカメラを通すと人気があるようにねつ造された歌手が入管を通り過ぎると
『お疲れ様でしたー。あ、これお弁当です。帰りの電車で食べてください』
ってADが渡す様な国なんてこの地球のどこを探してもあるわけないよね」




