4/5 午後の授業
人生初めてのトルティーヤなるものを食べた鯖江は、午後もきちんと十六才という名前の四十二歳の高校教師は物理の授業を始めた。
遅刻している生徒がいるのか。空いている席がいくつか見られた。
「ああそうだ。お前らの友達の中にもし早退しているやつがいたら、少なくとも午前の授業には出て、出席はちゃんとしておくようにしておけ。俺が面倒だ。というよりお前らが進学、就職する際に面倒な事になる。というわけだから携帯でメールしておいてやってくれ。いいなぁ。オフレコで頼む。魔術解放同盟というテロ組織が存在することが周知の事実であるのと同じくらいでオフレコで頼むぞお前ら」
女子生徒の何人かがさっそく机の下で。上で。携帯やスマフォを弄り始めた。こういうときだけ動きが早い早い。
「さて。午後の授業だが。お前達に質問がある。イロナ」
「はい」
鯖江は自分が指名されなかったことに、なんとなく安心してしまった。
「空が青い理由を答えろ」
「それは太陽の光が空気中の水や埃で反射して青く見えるのですわ」
イロナは髪をかきあげなら得意げに語った。
「それは違う。空が青いのはレイリー散乱。雲が白いのはミー散乱だ」
「レイリー散乱?ミー散乱?そんなもの聞いた事ありませんわ?」
「レイリー散乱は歴然とした物理化学現象だ。ウィキペディアにも書いてある。嘘だと思うなら後でインターネットで調べてみろ」
「あ、ホントーだー。イロナちゃん。空が青いのはレイリー散乱だよ」
巴川はスマートフォンを見せながらイロナに言った。
「巴川。授業中に携帯を使うのは自由だが教員にはばれない様に弄れ。それと数学系のテストの際は携帯ではなく計算機を用いるように」
「なんで携帯の電卓機能をつかっちゃいけないんですか?」
「そもそも数学系のテストで電卓を使っていいんですか?」
「そこら辺は学校の規則という奴だ。大人しく従ってくれ。授業を続けるぞ。何しろ魔術師共は学校でレイリー散乱について教わらないんだ」
「それって何か困る事なんですか?」
「困る。大いに困る。全世界的規模で大恥を書く。異性に振られる。レイリー散乱について知らない事は人生の多大なる損失だぁ」
「そこまでなりますかねぇ」
「実例をあげよう。俺が現役時代。世界統一政府軍の兵士として戦っていた時の事だ。ニューヨークに魔術師共の部隊が進行してきた。当然俺達は防衛線を行うことになった。俺達の部隊は、まず。あらゆる物理攻撃を無力化できるという堅牢な魔力の盾を造り出せるという魔術師と戦う事になった。二脚戦車の右手の戦車砲をすべてはじき返して、奴は言った。『汝ら下等な人間共に神の使いたる我々魔術師を傷つけることなど不可能』。次の瞬間この魔術師はどうなったと思う?」
「どうなったんですか?」
「二脚戦車の左手に装備された、装弾数五発試作光学狙撃銃に撃たれて蒸発したぞ」
そいつは随分とまぁ。レイリーな武器を試作していたもんだと鯖江は感心した。




