4/5 午前の授業
島霧鯖江が高校生になってから本格的な初めての授業は、国語。らしきものだった。
十六才という名の、四十二歳のオッサン教師は黒板に
『ガチャリ ガチャリ 電車が回る!』
という、短い文章を書いた。
「音読み眼鏡。これを読んでみろ」
十六才に指名された鯖江は席から立ち上がり、文章を読んでみる。
「がちゃりがちゃり電車が回る」
「どう思った?」
「どう思ったって、電車が走っているんじゃないですか?」
鯖江は素直に感想を述べた。
「そうか。俺はそう思わん。文章の通りだぁ。ガチャリガチャリと電車が回ってくる」
「だから車輪が回ってるんでしょ。がちゃりがちゃりと」
「電車が、ガチャリ、ガチャリと。回るんだ」
「わけがわかりません」
「そうかぁ。では俺がガチャリガチャリと回る電車を目撃した時の事を話そう。あれは二十年前。第一次魔力解体戦争の頃だ。初期の頃は人類が劣勢でな。二脚戦車もなかった。もちろんST-3の事だぞ。で、俺は当時イギリスにいたんだが、そこでソロモン七十七柱の一人、バルムンクとかいう魔術師に出くわした」
「ソロモン?」
「魔術師の中でも特に強いとされ、バルムンクはその中でも最強と言われている。当然現在進行形だ。どんな魔法を使うか、わかるか?」
「えーと。核爆発を起こす魔法で街ごと吹き飛ばしちゃう?」
「残念。不正解だ。バルムンクは物を破壊する魔法は使えない。だが、あいつは文字通り最強の魔法使いだったぁ。この俺が言うんだから間違いないぞ。奴の魔術はな」
「魔術は、なんなんです?」
「物を投げる魔術だ」
鯖江は椅子と机を蹴飛ばして転びそうになった。
「す、すごく弱そうな魔術師ですね」
鯖江は、空き缶やら野球のボールやらを投げる魔術師の姿を想像した。
「いや強い。バルムンクは投げる物に制限がない魔術師なんだ」
「制限がない?」
「だから電車の車両を放り投げることができる。ガチャリガチャリと回りながら、俺の目の前でイギリス軍の兵士を押しつぶしたからな。逃げるのに必死だったぞ」
「あ。だから文字そのまま意味で、『ガチャリガチャリ電車が回る』なんだ」
「それだけじゃない。ミサイルやら戦車の大砲も空中でキャッチして、投げ返せる」
「それは確かに強いかも」
「あと、これは第一次解体戦争後わかったことなんだが、バルムンクは『魔力』も投げ返せる」
「魔力?」
「つまりバルムンクが仮に魔術師同士で戦う事になったとする。さっき音読み眼鏡が言った核爆発を起こす魔法。それも投げ返せる。対消滅魔法も投げ返せる。相手が重傷を負って自分自身に回復魔法をかけようとしたら、それをキャッチして自分の傷を回復することもできる」
「それ、もうチートってレベルじゃないです。どうやって倒すんですか?」
「さっき言っただろう。バルムンクは現在進行形で最強の魔術師だと」
「はい?」
「ソロモン七十七柱のうち五十六人は死亡が確認されている。行方不明及び生存のうち、生存が確定している一人がそのバルムンクなんだよ」




