記者が行く~美少女記者と謎の薬~
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車窓から見える景色はめまぐるしく移り変わり、見るものを飽きさせない。窓際に座っている一人の女がそう思っていると隣の後輩が話しかけてきた。
「これから取材に行くのってたしかあの有名な博士の取材って本当ですか?」
「ええ、うちの局に限ってなら取材をOKしてくれたらしいわ。なぜかは知らないけれど」
「そりゃ、我が局の誠実感あふれる取材体制や態度が博士の琴線に触れたんじゃないですかね? それと別の噂もあるんですよ。うちの局だけという条件以外にももう一つ条件を博士がつけたっていう」
「へー、聞いたこともないわね。どういう噂?」
「いや、それがですね先輩が取材するなら応じるって条件を出してるらしいんですよ。うちの局でっていうことは詳しく言うとうちの局にいる先輩に限ってという意味だったらしいんですよ」
「なんであたしなんかを指名してるのよ、その博士とやら」
「さあ? まあこれも人から聞いた話ですし嘘の可能性が高いですけどね」
「あんまりしんじたくないわね・・・」
そういうと女はなにか考え始めてそのまま会話は中断した。
(一体どういう人物なのだろうかその博士は)
場所はかわり博士の研究施設、山の奥地にあるせいで到着した二人は完全に息を切らしていた。
「こんな奥地にあるなんて聞いてないわよ……」
女は愚痴をこぼしながら、首筋の汗を拭う。
「すみません、こんなに遠いとは僕も思ってなかったんですよ、こんなことなら車で来るべきでしたね」
「まあ、あなたのせいじゃないから気にしないで、とにかく中に入りましょう」
研究所の内部には様々な機器が並べられ、部屋の間取りも奇っ怪であった。奥に進んで行くと両手を広げた男の姿があった。
「ようこそ! 我が研究所へ」
これがかの有名な研究者、安藤博士である。
女は手を差し出して、
「今日はよろしくお願いします、博士! 私は乳豚テレビで記者をしている、槙野有栖と申します」
槙野は満面の営業スマイルを顔に貼り付けた。
「おお君が槙野くんか、ぐうふっふ、うわさ通りなかなかの美人さんじゃなあ」
その刹那、博士の右手は加速する。その手の早さは瞬間的に音を置き去りにしていたかもしれない。それほど、までにその動作は常人のそれを超えていた。
右手は何の躊躇いもなく、槙野の尻に触れる。そして、博士は右手を高速で動かし、尻をさすり回す。
その動作の速さに槙野は声を上げることさえ忘れていた。
ボゴッ!
鈍い音がなる。槙野は声よりも先に足が出てしまっていた。槙野の美しい足から出されたハイキックは博士の側頭に直撃。十メートルほど離れた壁に激突し、博士は意識を失った。しかし、槙野は依然攻めの姿勢を崩さなかった。
「殺す」
という一言と共に槙野は博士に歩み寄る。意識を失った博士は馬鹿面を晒しているのみである。
ドゴッ!
またも鈍い音が部屋に響く。博士の首はあらぬ方向へと曲がり、口からは僅かに血が出ている。
槙野は博士の死を確認した後、煙草を一本吸い始めた。そして、フーっと息を吐いて落ち着いた。
「やはりコヤツも有象無象の類であったか。我が生涯を共にする友はいつになったら見つかるのか」
そして槙野がふと後ろを振り返ると後輩の牧田がぐちゃぐちゃになって死んでいた。もはや生前の姿は影も形もない。おそらく、あの戦闘の余波に当てられて爆散したのだろう。
「あいつには悪いことをしたな、成仏しろよ」
そう言うと槙野は静かに研究所の奥へと向かっていった。
「前々から怪しいとは睨んでいたがここまでの物だったとは」
そう槙野が目の前の装置を見ながら呟いた。槙野がこのような怪しい取材に応じたのは別の目的があったからである。しかしそれを知るものは誰も居ない。
安藤博士がもたらした技術は数え切れない程膨大な数がある。その中で最も世界に影響を与えたものといえば皆さんご存じ。そう、アレである。アレは世界を変えたと言っても過言ではない、そして誰しもがアレを開発したとされる安藤博士に尊敬の念を抱かずにはいられないだろう。そう、槙野の父親である槙野亜礼礼が本当の開発者であると知らなければ。
亜礼礼は個人的に研究をしている自由な趣味人であった。儲けた金をほとんど研究につぎ込むほどである。それでも亜礼礼は家族との触れ合いだけは疎かにせず、娘や妻の前では優しい父親であり続けた。それが壊れたのは亜礼礼が新しい研究で発見したアレを発見した日だった。その日、亜礼礼はアレの研究を友人である安藤博士に自慢するために研究室に招いたのだ、その研究がいかに人の欲望を刺激するものとも知らずに。そうして研究所は安藤の手によって蹂躙された。
槙野が帰ってきた時には父はRPG7を七発打たれ瀕死状態であった。そしてところどころに不発したRPG7が刺さっている。そして亜礼礼は駆けつけた娘にこういった。
「お、っぱい…」
「お父さん! おとうさあああああああぁぁぁぁんんん!」
それが生涯研究に身を投じた亜礼礼の最後の意地であった。そうして、稀代の研究者、亜礼礼の人生は幕を閉じた。
それから十年
研究所は木の蔓や苔が生え、もはや遺跡のようであった。その研究所の奥の玉座では槙野有栖が煙草をくゆらしながら、静かに微笑みを浮かべている。
槙野の容姿は十年の時を経てもなお変わっていなかった。しかし、唯一変わっていたことそれは、槙野の胸がたゆんたゆんに成長していたことである。
槙野は自信満々に胸を逸らす。
そう、槙野亜礼礼が開発したアレとは不老不死、そして、成長を促進させることのできる薬だったのである。その薬を使ったせいで研究所は緑に包まれ、槙野有栖の胸はたゆんたゆんに成長したのである。
槙野は自らが得た不老不死の法を世間に公開した。それからの世界の変化はめまぐるしかった。まず、食糧が不要のものとなり食糧輸出国は大打撃を受けた。そして人が死なず一方的に生まれるだけの環境が出来上がり世界的な人口爆発が起きたのである。さらには明らかに野生動物の枠に収まりきらない怪物が出現するようになり世界は混沌に包まれた。
そして世界の変革がはじまった……
そしてさらに百万年後
世界がその形を変えたことで百万年の間に新たに生まれたものがあった。
それは、「魔法」
この魔法は今まで不老不死であった人間を殺すことができ、今までの人口増加とは一変、驚くほどのスピードで人口が減少していった。
人はお互いに殺し合い、奪い合い、そしてそこに魔法を使うようになった怪物…魔獣…が加わり世界は未だに混沌の渦にとらわれたままであった。
場所は変わりとある私立高校。
「やっべー‼ 遅刻する!」
この高校に通うジョージ・ブラウンは通学路を全速力で走っていた。
「早くしないとまた先生に殺されるぜ」
これは死なないこの世界でのジョークである。曲がり角に差し掛かったところでジョージは息をのんだ。人が前から出て来るのが見えたからだ。しかし、全速力で走っていたジョージは止まることができずそのまま体当たりをかましてしまう。
「きゃっ!」
ドンッ!
ぶつかった衝撃で先ほどの人は道路に投げ出されてしまい、そこに十トントラックが加速したまま近づいてくる。
グチャ!
先ほどの人の頭は簡単にトラックの下敷きになって、へしゃんこになってしまった。
「や、やっべぇ……」
ジョージは思わず声を洩らしてしまった。しかし、その瞬間、先ほどの人の頭がみるみる内に元通りになっていく。飛び散った脳漿も血も目玉も全てが定位置に戻り復元されていった。そして、全てが元通りになるとむくりと立ち上がり、それと同時にその人は一言つぶやいた。
「殺す」
ジョージはそんな言葉を聞きももせず、ただ安堵の息を洩らし、小さく歓喜していた。
(よかったぜ、生きてて、まあそら、生きてるよな! それにしても女の人だったんだな、しかも、すげー美人だし、おっぱいもたゆんたゆんだぜ、俺ちょーラッキーじゃね!)
ジョージは内心でそう思いながら、艶やかな長い黒髪と豊満な胸ばかりに気を取られていた。
女はジョージの目の前まで来ると眼にもとまらぬ速さで右脚を振り切る。
ドゴッ‼
女の細く、しなやかな脚からは想像もつかない強烈なハイキックがジョージの頭部を打ち抜く。
「ぼへっ‼」
その声と同時に横のコンクリート塀にぶち当たる。ジョージの頭部からは血が限りなく流れて出ている。
しかし、女は攻撃の手を緩めることなく、ただ鋭く美しい視線をジョージに向け、淡々と頭部や腹部にローキックをあびせる。その姿は狂気そのものであった。しかし、ジョージは薄れゆく意識の中で恐怖の他に小さな高揚感を抱いていた。そして、そんな意識さえも次第になくなり、ただの闇が広がっていった。
が! かっくしてその時!
「立つのじゃ。ジョージ。おぬしはこの世の救世主となる男なのじゃ」
戦う高校生ジョージは目を疑った! 先代伝承者リュ○ケン。
(我が師が何故ここに、いや今はそんなことはどうでもいい、見事な女体にうつつを抜かしていた私の事を師にバレると……)
「師父、違うのです! 私は命に代えても決して女体などにあ、おほん、私は死んでも女体ごときに! おっほん、私は地獄の業火に焼かれようとも女体女体女体」
「ぐぅわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ。俺はあのたっぷりの谷間がぐぅわぁぁぁぁぁあああああああたまんねーヒャッハ――――――!」
「北斗○生転身」
ぶっふぇゅえぐろ。
戦う高校生、第365代目北斗神拳伝承者ジョージ 死す。
そしてジョージの死から三億年後……
宇宙は決戦の時を迎えていた……
幾数年の時の中で人類は新たな新天地を求めて宇宙へと飛び出した。人類は驚くべき速さで瞬く間に太陽系を支配していき、このまま全宇宙さえも支配下に置くかと考えられた。しかしその人類の前に立ちはだかったのは新たな生命体であった。その生命体はImmortal Tom Object 通称ITO、日本語で言うとイトーである。この生命体は人類と同じく通常の兵器では全く太刀打ちできず、魔法兵器しか通用しない。さらに人類と同等か同等以上の魔法技術を保持しており人類の軍をことごとく壊滅に追いやった。
しかし今、人類はついに反撃の時を迎える。
「各艦隊の隊列はどうなっている」
「は! すべての艦隊が定位置についております!」
司令艦からは全五億隻の艦隊が一望できる。ITOに攻められていた反面、人類はこの艦隊の建造を進めてきた。今までの艦隊と違う点は今までの魔法兵器を無効する点である。魔法とは本来の魔素を消費して行使することは周知の事実ではあるが、この艦隊に搭載されている装置はありとあらゆる魔法的な要素を無効化する。しかも敵のだけ。
そして一番の主力艦であるゴンザレスは積載量五十億㎗、平均骨密度9999%、そして、一万の副砲、主砲が四万の超巨大戦艦である。
「ふわわわは! 今日でITOは滅ぶのだ! 全軍発進せよ。奴らに目にもの見せてやろうぞ!」
カッ!
その瞬間、ITOの艦隊から激しい閃光が放たれた。それと同時に地球軍の艦隊はいとも簡単に消滅してしまう。それは煙さえ残さず艦隊を無に帰するほどのものであった。人々は一言も発する暇さえ与えられなかっただろう。
ITO軍の指揮官は人類の艦隊が消滅したことを確認して、ほくそ笑んだ。
「人類なんて消えて当然よ」
ITOの指揮官、全てのITO達を統率していたのは何を隠そう槙野有栖であった。槙野は二億九千万年前、すでに自らの故郷、地球を飛び出し新たな新天地を求めて一人旅立っていたのである。
槙野は豊満な胸を逸らし自慢げに鼻を鳴らして言う。
「人間などというごみ共は皆滅びればいいのよ! いつまでも争いを止めない醜い者たち、お前たちは私が全て無に帰してあげるわ」
槙野の眼には涙が浮かんでいた。槙野は思い出しているのである。自らが歩んできた長い年月、父親との思いで、短いながらも自分を慕ってくれた同僚の事、そして何より不老不死を世に広めてしまった自身の過ち、それら全てが槙野の心を激しく打った。
槙野の胸が揺れる。たゆんたゆんと揺れるのだ。
そして、ITOの艦隊からまたしても巨大な光が生まれる。槙野は涙を拭って言う。
「ん……、照準は……、地球……」
槙野の白い肌を涙がつたう。とめどなく流れる。
(ごめんなさい)
心の中で呟いた。
「てぇーーー‼」
力強く言い放ち、艦隊から巨大な光線が放たれる。その光線は一瞬にして地球を飲み込み、そして消し去ってしまった。
槙野はその場に膝から崩れ落ちた。そして思う。これで全てが終わったのだと。
残ったのは槙野が作り出した生物兵器であるITO達とそれらを統率する槙野ただ一人だけであった。
エピローグ
どこかの場所にある薄暗い部屋の中一人の男が槙野の映像を眺めていた。
「ふふ、ほんと面白いように踊ってくれるねあの娘は。これも遺伝なのかねぇ……」
そうして、安藤博士は一人そう呟いた。