第八話.ルール
これ以前に出てきたプレイヤーのステータスを一部修正いたしました。
レベルアップした生徒のステータスの表記を、レベルアップ時のルールに則って変更しています。
神野響のステータスが、
レベル271
HP:891
MP:1762
攻:2208
防:660
魔:321
賢:104
SP:2520
HIT:321
AVO:151
に変更になります。
また、御木本も、
レベル132
HP:2873
MP:745
攻:532
防:355
魔:341
賢:147
SP:491
HIT:417
AVO:174
に変更しました。
十二名の生存者たちは、第一階層の聖域、つまりモンスターが入り込めないエリアへと到達した。
瀕死の重傷を負っていた者たちも次第にHPが回復していく。
とはいえ、そのひと時の休息に対して安堵を示すものはいなかった。
通路の先。ギリギリ探知が効く限界でこちらをけん制するように見つめている存在があったからだ。
ボス……レベル999。ほかのトロールとはまったく違う。
「……赤口くん」
「赤神だ……」
「そう。赤……えー。とにかく。あまり聖域の外部に近づかないで、ほかの人たちと同じように中に引っ込んでいたほうがいいよ」
「どういう意味だ?」
確かに心理的な問題か、ほかの生徒たちは聖域の内部でもできるだけ奥へと引っ込み、魔物出現エリアからは遠ざかっている。聖域エリアも黄色い光でおおわれているということ以外は外界とほぼ同じであり、入り組んだ通路や小さいホールなどもいくつかある。だいたい五個ほどのホールとそれをつなぐ通路が聖域の広さ、といったところだった。
内部に進めば、魔物たちが視界も入らないようになる。
特に傷を負った生徒たちは攻撃がされないとわかっていても心理的に耐えられないのか、聖域内でもより内部、モンスターが見えないエリアで休んでいるようだった。
そういう意味で言えば、リアルに惨劇を経験しなかっただけ、拓哉は幾分かほかのものよりも冷静なのかもしれない。拓哉が目にしたのはあくまで蹂躙されるクラスメイトだけで、自らが真に命の危険にさらされたわけではなかった。それでも実際、いまだに思い出せば体が震えるほどには答えているのだから、彼らの心中も察せられる。
「この聖域エリアにいたからって安全、というわけではない」
「なに?」
「まあ比較的安全という意味ではその通りだけどね。あれは単純な接近攻撃しかしてこないから安全とはいえるけど、遠距離攻撃を行う魔物なら聖域の外からなら攻撃してくるだろうし」
たしかに、その可能性は否めない。しかし試行できていない以上、それは可能性の話だ。そうあるかもしれないし、完全に無敵の防御結界なのかもしれない。とはいえ、たしかに神谷の言っていることは理にかなっているが、それでもおかしい。なぜ、彼女はそれを当然の心理のように語るのか。
いや、その疑問はそもそも彼女が闘っているときからあった。
「なあ……神谷」
「なに?」
さらにいえば、なぜ彼女は、茜を生き返らせることができると言った?
言ったように他人を焚き付けるためにわざわざうそをつくとは思えない。彼女はそれを知っていた。そして聖域の効果も把握している?
「……神谷、なんでおまえは俺たちの知らない情報を握っている?」
「……なんでだと思う?」
試すように神谷は聞き返した。
「いくつか、可能性は提示できるけど……」
「言ってみて」
「あの神の口ぶりからすると、おそらくここに来たのは俺たちが最初じゃない。幾人もの人間が死ぬたびに召喚させられ、このダンジョン攻略を無理やりやらされてきた」
ここまではほぼ確実な想像だろう。偶然選ばれた人間は自分たちが最初だ、なんてそれこそありえない話だ。
「おまえはすでに、ここにきたことがあるんじゃないか?」
そう言うと、ふふっと神谷は微笑んだ。初めて見た、彼女の感情らしい感情かもしれなかった。
「ええ。わたしはこの地獄に一度来たことがある。……一年くらい前に」
そういえば神谷はたしかに三年生になってからこの学校に転校してきたはずだ。学年全員の名前と顔を把握しているわけではないので、彼女が二年の時にいなかったという確信はもてないが、何人かがそのようなことを噂していた。
「邪神を倒す以外に、この腐ったダンジョンを脱出する方法はある?」
「……ええ」
それに対して神谷はうなずく。
当然だった。最深部にたどり着いた人間はいない。その前提は崩せないだろう。だとしたら、途中で帰還できる方法が用意されているということ。逆に言うと、現実的に言って、それを狙うしか生き残る方法はないとも言える。
このダンジョンは少なくても一年以上前から死んだ人間が何人も駆り出され攻略をやらされているのに、未だクリアしたものがいないのだから。
つまり、攻略は……不可能だと言っていい。
「その帰還方法は、ボスか?」
「……まあね」
神が言っていた、ボスを倒した時に訪れるボーナス。それの中に地上への帰還権がある、というのが妥当か。
「そして、そうね。私の知りうる情報はあなた方にも教えておいたほうがいいかもしれない」
その言葉は拓哉にとっては意外なものだった。神谷はきっと自らが生き残ることしか考えていないはず。と、なればここに残されている人間は、神谷がスキルを円滑に使うためだけに生き残らせているのではないか。
「一応きみたちはクラスメイト。死ぬのは目覚めが悪いという思いもある。無知でいると一瞬で死ぬから。事故死だけは勘弁してほしいからね」
そんな拓哉の疑問を感じとってか、神谷はそう続ける。
たしかにある意味では神谷とは相互協力関係が取れている。クラスメイトが死ぬと目覚めが悪いなんてきっと彼女はこれっぽちも思っていないだろう。神谷は一人だけ生き残ればそれでいいと思っている。
とはいえ、彼女のスキルは、仲間がいることで初めて発揮されるものだ。おそらく杉山のスキルは固定し自らのものにしているのだろうが、それはひとりだけ。あとは30分という限定つきで、そのスキル持ちが死ねばそれ以降は使えなくなる。
御木本や、敵の位置を知ることができる拓哉は彼女的にも死なれては困る、ということだろう。
「当然、私の生存確率が下がるようなことをあえて教えるつもりはないけれど」
「まあ、それはいい。なら教えられる情報だけでいい。このダンジョンのルールを教えてくれないか?」
「わかってる。まあ、知っている範囲で、とはなるけれどね」
というわけで、彼女から情報を受け取る。
まずレベルとステータスについてである。
敵を倒すと経験値がもらえるが、それは敵を絶命させたそのプレイヤーにのみ発生する。パーティ全員にということはない。
レベルが上がると、STポイントというポイントが得られる。プレイヤーは自由にそれを各ステータスに振り分けることで強化する。初期値で高いステータスは少ないポイントでもより強化され、逆に初期値が低いステータスはポイントが低いそうだ。
レベルが1上がった時にもらえるポイントは10ST。これを各ステータスに振り分ける。
振り分けたときに上がるポイントは、1STで初期値の100分の1。つまり、100ST振り分けると現在の倍のステータスになるということらしい。基本的にはこの計算方法に振った時に微々たる乱数が発生し、ある程度上下する。
またSTポイントによって魔法や技を覚えることができる。魔法や技は多くのスキルの弱体化したものであり、MPを多大に消費することによって擬似的にスキルに似た効力を発動する、というものらしい。
レベルは999でカンストする。
一階の敵を全滅させれば、999にはほぼ届くらしいから、それ以降のレベルアップは望めない。STポイントをどのように振り分けるかが勝敗のカギとなる。それ以降はボスを倒した時にボーナスSTポイントがもらえるようで、それ以外にステータスの強化方法はなくなるらしい。
さらにダンジョン内には宝箱が設置されており中にはアイテムが入っている。
神谷の経験上、ミミックが現れる等の、トラップだったことはないらしい。さらに敵を倒してもアイテムがドロップされる。
アイテムは装備品や回復等のポーション、一時的にスキルを発動するスキルカードなどがあり、基本的にはこれらを組み合わせて攻略していくのが基本戦略。アイテムは手に触れた瞬間、アイテムボックスと呼ばれる異次元に保管される。
これは拓哉も体感している。説明できないが、頭で思い描くとそのアイテムを出したり閉まったりできるのだ。
聖域についてだが、前述のとおり、モンスターは聖域の外から遠隔攻撃などで平気で攻撃してくる。
しかも、モンスターは聖域に入れないというわけでもないらしい。
聖域内に入ったモンスターはかなり弱体化されるものの死ぬわけではなく行動できる。なのでやばいモンスターは聖域内にも入り込んでくる可能性がある。ではなぜ基本的にモンスターは聖域に近づかないかというと、聖域内で死ぬとそのモンスターは消滅するかららしいのだ。
通常フィールドで倒されたモンスターは、一定時間経過後復活するらしい。だが、聖域内で死んだ場合はその効果が得られず、完全なる死がモンスターに訪れるそうである。
これはまあ、納得できる話だ。
実はモンスターに知能があるという事実を知ってから、拓哉の中には、闘わずにすむ方法があるのではないかという思いが生まれた。知能があるということは死を恐れるということだ。こちらが得体のしれないスキルという力を持っている以上、敵だってうかつに攻撃したくはないはずなのである。だが、敵は実際に拓哉たちを襲ってきたし、味方が死んだ後も、神谷に攻撃をするモンスターまでいた。死への恐怖という閾値が低すぎると感じていたのだ。知能がないのでは? とまで思ったが、どうやらこの復活というルールを聞けば納得もできる。彼らは死んでも一定時間立てば復活できるということを、知っている。
だからこそ死を恐れずに、どんなスキルを持っているかわからない人間相手に立ち向かってこれるのである。
だが逆に言えば……。
「赤神君……」
と、後ろから不意に声をかけられる。見ると立っていたのは御木本だった。
評価感想等お待ちしております
よろしくお願いします。