第七話.ボス
「まだ数が多いけど。まあいいか。このくらいの数なら統制が効くか」
じりじりとトロールたちは少しずつ距離を置くように後ずさっていた。なんとか生き残ったクラスメイト達は藁をすがるように神谷のもとへと集まってくる。
「12人……ね」
フウと、響はため息をついた。
そう、だった。この一瞬で、すでに半分。
半分?
脳内がマヒしているのかもしれない。その事実を理解しようとしない自分がいるのも事実だった。今ここにいるのは十二人。ということは。
「ごほっ……うげっ!」
これは、なんだ?
この地面を埋め尽くす赤い液体は、着色物でも絵具でもない。血なのだ。
今まで同じ時間を共有してきたクラスメイト達の、血なのだ。
「……地獄だ、ここは」
ここは、ただの地獄だ。
そう思った。
「……た、くやくん」
「七海……」
血まみれの肩を抑えながら右足を引きずって七海が拓哉のもとへとやってくる。
「……よかった。生きて、たんだね。拓哉くん、取り残され、た、みたいだった、から……」
「ああ。生きてる。七海……」
もうやめてくれ。もうっ!
夢なら冷めてくれ。
「ぐぅううるあああああああああああああああああっ!」
しばらく均衡状態を保っていたが、いきなりの咆哮に拓哉の心臓が震える。
「な……」
距離を取っていたトロールたちのうちの一体が一団から飛び出してきたのだ。
「だから」
ハアッ、とつまらなそうに響は息を吐く。
「わかんねーのか。ゴキブリ」
そして次の瞬間にはそのトロールの顔面付近に現れていた。
「……速い!」
そして、またしても、その顔が吹っ飛ぶ。一撃だった。
神谷響
レベル271
HP891
MP279/844
攻:1091
防:870
魔:321
賢:104
SP:621
HIT:121
AVO:111
固有スキル:
神業擬態――自身の目の前で発動され認識したスキルを30分間、自らのものとして使用できる。
神技定着――神業擬態によって得たスキルをひとつ永久に自身のものとして使用できる。
「神谷……」
つまり、神谷響は今までクラスメイト達が発動してきた全スキルを発動できるのだ。
杉山の『全能強化』でSPに補正をかけ、さらに『範囲速化』で補正をかければ実数値は100倍だ。さらにインパクトの瞬間のみ『全能強化』で攻撃に補正をかけ、さらに御木本の『無限神撃』で攻撃回数を倍増させた。
レベルが上がって今の実数値ではあるものの、響は10000越えの攻撃を200回以上連続で使用できるということである。
その補正値は、ゆうに彼らトロールの実数値をも上回る。
「さてと……」
血に汚れた日本刀を素早くびゅんっと神谷はふるう。そして、トロールたちを見る。
トロールたちは恐れおののいたように後退していく。敵が正確に神谷のスキルを把握することはないだろうが、だからこそ不気味なのだろう。味方が二体瞬殺されたという事実。それが彼らの後退を余儀なくさせたのだ。
「けが人も多数いることだし、とりあえずトロールを追うのはやめてダンジョンを進行しましょうか。聖域に入れば命ある人間たちは全員回復できるのだし」
その言葉に異を唱える者はいなかった。
一縷の希望が見え始めたのだ。
神谷響ならば、闘える。彼女の能力、つまりスキルを一定時間自身のものとするスキルがあれば。ここにいる全員のスキルを彼女に集めれば、闘える。勝てる。
この地獄も攻略しうる――!
そう思った。
そしてその希望は現実の形となって拓哉たちを祝福した。トロールたちに一度も遭遇することなく聖域へとたどり着いたのだ。そこは洞窟の中で唯一光り輝くオアシスだった。
だが……。
「ゥロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
後方から届いた方向がそんな希望を打ち砕こうと拓哉たちを襲っていた。
通路のその先にいる存在。
「な、んだよ、あれは」
それは今まで遭遇してきたトロールたちより、はるかに大きい。誰もが、その情報を見ることなく、拓哉のような詮索スキルがなくても、理解した。
「ボス、だ……」
ボストロール――
レベル999
HP435925
MP0
攻:41891
防:22150
魔:10
賢:110
SP:2891
HIT:921
AVO:711
ここは、どこだ?
神が作った地獄、なのだと。
絶対、攻略不能…
総プレイヤー数26人。生き残りプレイヤー数12人。
攻略経過時刻00:00:24
生存者12名
男子
出席番号1赤神拓哉
出席番号3市川蒼穹
出席番号5岡田英樹
出席番号9坂上光一
出席番号19御木本照
出席番号21 横山大
女子
出席番号3神谷響
出席番号5北野七海
出席番号8高本知紗
出席番号9斉藤香苗
出席番号12高橋綾乃
出席番号17三波沙紀