第二話.希望の中
1階……。
薄暗い洞窟の中にその全員はあった。狭い通路が四方に向かって伸びていて、本当にダンジョンという感じ。今いる場所は小さなホールほどの大きさで、視界の先に二本の通路が見えている。
「しっかし、パーティが26人ってのもなあ」
ポンポンとつまらなそうに肩をたたきながら杉山が言う。たしかにこれだけいると緊張感もあまり出ない。
「……光一君」
くいと坂上の服の裾を引っ張って、少女がうつむきながらそう言った。
高坂茜。同じく二年三組の生徒で、さらには坂上の彼女だったりする。
「茜……大丈夫だって。これだけ人数がいるんだ。まして杉山なんてあの壊れスキルだ」
「壊れスキルとはなんだよ、坂上! ま、高坂ちゃんも安心しな。こんなくっされダンジョンさっさと攻略して、修学旅行の二日目に戻ろうぜ!」
「う、うん。そうだね」
少し明るそうな表情を作って高坂はそう返す。
「大丈夫。茜だけは俺が絶対に守るから」
さらにその手を握って坂上はそういう。
「相変わらずあついなー」
「ちゃかすなよ、拓哉」
「拓哉も私のこと守ってよ!」
「はー。何言ってんだよ。お前は坂上に守ってもらえばいいだろ」
と、拓哉はなあなあに手をふる。
実は茜とは小学校時代からの幼馴染であったりする。同じ学校同じクラスということで今でもそれなりに仲良くしているのだ。さらに言うと坂上と茜が付き合うことになったきっかけというか、仲良くなった原因というか、そういうのは拓哉にあるので、まあ二人にとっては恩人というわけだ。
拓哉は手を握り合う二人を見つめて、軽くため息をつく。
「たっくーやくん!」
と、そうこうしているとドンっと背中をたたかれる。
「な、なんだよ!」
「いやー。茜ちゃん守ってあげないなら、あたしのこと守ってくんね? 席空いてるよん」
彼女は北野七海。お調子者でクラスのムードメーカー的存在だが、そんなわけで男友達はいっぱいいても彼氏はいないという残念クオリティなのだ。顔はかわいいと思うのだが。まあ付き合うことになったら、次の日にはネタにされそうという恐怖感から結局だれも彼女に告白したりはしていない。
「いや。いいよ。だったら高橋のこと守るわ」
高橋というのはクラスのマドンナ的存在だ。めちゃくちゃもてる。今もクラスの男子たち数人にいろいろ声をかけられている。
「ちょっとー!!」
「まあ、無理しない範囲では守るよ。ってかこうなったら男女もなにもねーだろとは思う。ステータス的には俺よりおまえのほうがいいんだぜ?」
「え、そうなん。握手しよ」
というわけで七海の手を握る。
「ほんとだ。現実でもぱっとしないのに、こんなことになってもパッとしないんだね、たくやくんて」
「うるさいな」
とはいえ、七海のステータスも拓哉よりは高いが、坂上よりも少し低いくらい。まあだいたいクラスの平均といったステータスだった。
ちなみに、数値で一番いいのは言ったように、杉山。次いで、クラス委員長の御木本もいい。続いては女子で、神谷響。と、あとはトントンというところで、10番目くらいに坂上が入るかな、という感じ。ちなみに拓哉はケツから二番目という残念スペックだ。
一番ステータスが低いのは……。
「よ、斉藤!」
斉藤香苗という女子だ。クラスではあまり目立たず一番後ろの席でいつも本を読んでいる。
「は、はう、あ、な、なに」
「いや、結構ステータスが低かったからさ。自分で心配してるんじゃないかって」
「え、あ、あくしゅ、し、してな……」
「あ、おれのスキル、探索系でみんなのステータスわかるからさ。だけどまあ、心配するなよって言いに来た。一人で戦えって言われてるわけじゃない。これだけの人数がいるんだ。闘いに不得手なステータスやスキルを得たやつは後方支援に回ればいいからな」
「あ……あ、うん」
と言ってプイと顔をそむけてしまう。
「アハハ。ふられてやんの」
「そんなんじゃないっての」
フウとため息をついて拓哉はちゃかしてくる七海にこたえる。
「さて……」
というわけで拓哉は先頭にいる杉山と御木本のもとへと向かう。
「やあ、赤神くん。そういえば君とは握手してなかったね」
と、御木本が赤神にそう言う。
「ああ、悪い。おれのステータスも教えておくよ。ついでに言うと俺のスキルは相手のステータスが分かるってものなんだ。クラス全員と握手するのも大変だろ。全員のを教えとこうか?」
「ああ。悪いね」
というわけでとりあえず御木本にステータスを共有しつつ、クラスのステータスとスキルを教える。
「なるほどね」
御木本は持っていた手帳にそれを記入する。
「……あれ、手帳」
「ああ。あのとき身に着けていたものは一緒に持ってこれているみたいだよ。胸ポケットに入れていたからね」
「そうか……」
せめてケイタイでも持っていればいろいろと確認したいこともあったが。関条高校では一応修学時間中は携帯電話の使用は禁止。というわけで修学旅行中もバッグに入れ手でもっていたわけではないのだ。そのため、ダンジョン内には持ちこめていない。
「おれは持ってきてるぞ」
そう言って杉山はポケットからケイタイを取り出す。
「だけど、圏外だ。残念ながらな」
「そうか……」
まあ、対して期待はしてはいなかったけど。
「さて。で、だ。これから実際ダンジョン攻略をしていこうと思うんだが、実質的に戦うのは杉山君ということになる」
「ああ。任せろ」
「赤神くんに教えられたステータスをメモしたが、やはり一番強いのは君だ。あと僕と、次いで神谷さん、か……三人が前線に立つ。サポート系のスキル持ちも多いからね。回復系のスキルを持っている人もいる。幸いなのは、赤神君のスキルもあるってことかな」
「ああ。広域探索のほうは既に使用している。一応半径100メートル以内に敵の反応はないよ」
「ありがたい。さらに敵のステータスを見るきみのスキルで実質的に勝てそうかどうかなどを教えてほしい。敵にまだ遭遇していないから我々の力がどれほど及ぶのかわからない。とはいえ……」
そう言って御木本は地面を蹴りつける。すると地面が音を立ててえぐれ、彼の体が十メートル近く浮き上がる。
「この程度の力はあるってこと」
「ひゅ~。なるほどな」
と、それを見ながら感心したように杉山がため息をつく。
しかしステータス、スキルと言われて実感があまりなかったのだが、事実、ありえないくらい体が軽いのだ。
ちょっと試しに走ってみると、今まででは考えられないほどに速く走れる。体感だが、オリンピック選手だって勝負にならないだろう。