座標
木村が爺さんに取り入っている頃、徳山と金田は、安東と星本を使って、この老人の唯一の肉親である実弟の行方を探していた。ここからは木村が関わっていないので推測に過ぎないが、おそらく、その弟は殺害されている。
木村が面倒見ている老人の近所に住民票を移したのだが、木村はその弟を一度も見たことがないそうだ。
ある日、木村は金田、安東、星本の訪問を受ける。彼らは、あっという間に老人を縛り上げて車のトランクに入れ、「ど忘れした時のため」と、木村を信用して教えていた金庫の番号をつかって金庫を開ける。そして、証券、通帳、実印、銀行印などを盗み、現金化してしまった。その老人は、首つり自殺の状態で近所の森で発見され、遺産を相続した弟は、再び住民票を移して引っ越してしまった。
木村は、その弟は替え玉で、実弟はどこかに埋められていると推理していた。そして、口の軽い星本から、その場所を聞き出す。
そんなことを聞いたのには理由がある。木村は、独特の嗅覚で、自分の身に危険が迫っていることを察知していたからなのだった。
老人に情が移ってしまい、木村が殺害を渋ったのを徳山に知られ、知りすぎている木村を殺害する方向で計画が進行していたのだった。
安東、星本という木村よりもっと使い勝手のいい手駒が手に入り、木村の価値が下がったというのもある。
殺害される前に、木村は車を奪って逃げた。これが6年前の、両足を切断する事故につながっている。
万が一の保険のため、木村は老人の弟を埋めた場所の座標を記憶していた。生きているはずの老人の弟が実は死んでいたとなっては、警察も動く。
そうなれば、委任状を受けて事務処理を代行した金田たちの名前が浮上する。
事故死や自殺が多い、不審な点も追及されるだろう。徳山たちにとっては、一番避けたい事態だ。
その座標が、メモにはあった。
移し替えたりしなければならない時のため、星本はGPSで座標を記録したらしい。実はGPSは数メートルの誤差が生じるらしいので、目印も記載されていた。
徳山は、木村が刑務所に入ったことで、彼に手が出せなくなった。口封じは諦めてないだろうが、同時進行で次々とリスト上から獲物を見つけては殺害することを繰り返しているはずだ。
このあたりは、須加田の調査の結果を待つということになる。
「我々は、この死体を埋めたという情報の裏をとることにしよう。既に移し替えていたら、無駄骨になるけど、徳山は木村が刑務所に入ったことで、油断しているからね」
俺たちが死に追いやった可能性のある木村を平気で口に出すあたり、佐藤の神経は太いのを通り過ぎて異質ですらある。今頃は、那覇に着いて石垣島行のフェリー乗り場に向っている頃だろうか?
佐藤はノートパソコンを開いて、検索を始めた。トラックのレンタルと、小型のシャベルカーのレンタル会社を調べている。死体捜索の準備だろう。
埋められて6年以上が経過している死体を掘り起こすことになる。完全に白骨死体になっているだろうが、ぞっとしない話だ。
「シャベルカーの操縦が出来るのか?」
意外な気がして、俺は佐藤に言った。佐藤はいかにも文系という感じで、こういった物を操作する姿が想像できない。
「いや、いじったことすらないよ」
俺だって、シャベルカーなんぞ触ったことはない。ではどうするのかと思っていたら、造園業を営む知人に依頼するらしい。なるほど、造園関係なら小型シャベルカーは使い慣れているだろう。
だが、こんなことに巻き込んで大丈夫なのだろうか?
「大丈夫、大丈夫。任せておきたまえ」
佐藤はそう言ったが、俺は少しも安心できなかった。




