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大阪

 同じ都会でも、東京と名古屋と大阪は空気が違うと俺は思う。行き交う人々が全て関西訛りというのも、なんだかエキゾチックな感じがする。

 エスカレーター一つとっても、立ったままの人と歩行する人が、どちらかに寄るという暗黙のルールがあるのは東京と一緒だが、東京は前者が左側に寄るのに対し、大阪ではそれが逆だったりする。

 何かの歌の歌詞に出てきた「御堂筋」を走る地下鉄を経て京阪本線に乗る。守口市を通る鉄道は、この京阪本線だけだった。

 広大な大阪城の守り口がそのまま地名になったこの市にある駅の名前も同じく『守口市』であった。東京だと地名に由来した駅では「市」までは駅名につけることは少ないような気がする。俺の行動範囲は狭いので何とも言えないが。

 典型的な都会の郊外。それが守口市駅を降りた俺の感想だった。時間は夕刻になっていて、学校帰りの学生や会社帰りのサラリーマンが帰路についていた。

 佐藤は、地図も見ずに歩を進めていた。住宅街の入り組んだ路地も平気で入ってゆくが、俺はもうどこを歩いているか分からなくなっていた。

 佐藤は、とある古いアパートの周囲を歩いて、例のキャンバス地のバッグからデジカメを取り出し、何枚か写真を撮ってまた仕舞う。素早い動作だった。

 「住宅街で写真撮っていると、空き巣の下見と間違えられるからね」

 そんなことを佐藤は言っていた。

 「引き上げよう。今日は下見だから、ここまで」

 再び京阪本線に乗り、帰ってきたのは中之島というところだった。有名な淀川からバイパスのように分かれる川に大川というのがあり、その下流に近いところが中洲になっており、そこが中之島と呼ばれる場所だった。

中之島には大阪市役所なんかもあり、大阪の中枢の一つらしい。駅を出るとすぐ大きなホテルがあり、ラフな服装だと気おくれするような内装なのだが、佐藤は頓着していないようだった。

 「佐藤の名前で2部屋予約してあります」

 フロントでそう告げると、愛想のいいホテルマンが宿泊カードを出してくる。職業欄で筆が止まったが、佐藤と同じ「自営業」とした。住所は出鱈目に書いたが、これは危険な奴と対峙するのだから警戒してのことで、本当はよくない。

 佐藤は、大阪方面に行くことを決めた時点で、宿も確保していたらしい。それにしても、高そうなホテルだ。佐藤の金の使い方は無頓着すぎる。俺が貧乏性というのもあるが。

 ホテルのポーターの「荷物をお持ちします」という申し出を断り、エレベーターに乗る。

 「高そうなホテルだな。軍資金は大丈夫か?」

 俺がそう聞くと、佐藤はやっと周囲を見回し、

 「そういえば、しゃれたホテルだね」

 と言った。

 予想通り、こいつは自分がここで浮いている事を全く気にしていなかったようだ。

 「他に選択肢はなかったのか?」

 という俺の問いには、

 「駅から一番近いのがここだよ。だから選んだのだよ」

 それが、佐藤の回答だった。ようするに、佐藤は駅から近ければ安宿だろうが、高級ホテルだろうが関係ないということらしい。

 心配するのがバカバカしくなる程の思考の無頓着さだ。

 「金はねぇぞ」

 俺は嫌味でそう言ってやったが、佐藤は「大丈夫。私が払う」と言ってエレベーターを降りる。俺もそれに続いた。

 思った通り、シングルなのに部屋は広く設備もいい。まぁ、徳山の保険金詐欺の貴重な生存者である木村に会うための大阪出張は、俺の雇い主である佐藤もちということなので、「もったいない」と思うことはやめにした。

 荷物といっても、着替えの下着ぐらいのものだ。荷ほどきするほどの事もない。

 カーテンを開けると眼下には川が見えた。淀川のバイパスみたいな大川が、中之島で2つに分断されて、1つは安治川、1つはこれもまた有名な道頓堀川と合流して尻無川と木津川に分かれて大阪湾に注いでいる。東京と同じく、昔は水運が経済を支えていたのだろうなと思う。歴史は詳しくないので、よくわからないが。

 携帯電話に佐藤から連絡が入る。夕食のついでに明日からの行動の打ち合わせをしようとのことだった。佐藤は無頓着にこのホテル内にある有名な料亭の出店を選んだ。

 値段は目が飛び出るほど高いが、気にしないことにする。どうせ、何を食べても味などろくに分からないのだから。


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