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9.侍女の知らぬことです

選手控え室は試合前の緊張感と汗と血が混じったような男臭さを漂わせていた。

貴族も庶民も区別のないこの大会は、控え室も例に漏れることなく区別がない。

そのため会場の横の特設控え室は、出場者全員が収容できるような大きさであり、とにかく広いのだ。

最初は100人ばかりはいたのだろうが、いよいよ後半戦になろうかという時間になると、すでに10数人しか残っていないように感じられた。

その半数以上が見知った顔である。


ここまでくると更に緊張感が増してくるというものだが、その空間から完全に外れている二人が、いつもと変わらぬ様子で談笑をしている。


「おう、ちゃんと勝ち進んでるじゃねぇか」

「当たり前だろう。苦手じゃないからな」

「みんな驚いてるだろうぜ?あのラミナス様が剣技までお出来になるなんて!ってさ」


団長はいつもの様子でラミナス様の肩を叩いた。

ラミナス様もまんざらではなさそうな顔でその言葉に答えている。

団長の言う通り、ラミナス様の腕がここまでとは正直思わなかった。

やはりヴァンパイアなだけあって身体能力は優れているのもあるだろうが、それだけではここまでは残れない。

少し練習した、というレベルではない。

こればかりは才能も手伝っているとしか言いようがないだろう。

しかしなぜそれを今まで黙っていたのだろうか?


「アラク!」


ふと自分の名が呼ばれ、それが団長であることをすぐに察した。

俺が立ち上がると、団長はニヤニヤと笑みを張り付けながらラミナス様を引き連れて近付いてきた。

仕事でも幾度となく見掛けてはいたが、このようなプライベートの話をするような場では会ったのは初めてだ。


「ラミナス、こいつがアラク・カルノリアだ」


ラミナス様は笑顔で俺を見ているが、その目は笑っていない。

アリスの新しい主……。

当然振り回されているのだろうことが想像できる。


「君がアリスのお兄さんなんだね」

「妹がお世話になっております」

「いや、世話になっているのは俺のほうだ」


そこで何を思い出したのか、今度は本当にくすくすと笑っている。

アリスは粗相をするようなタイプではないと思うが、何かしたのだろうか。

もしくは、何かされたか……。

人の仕事までは口を出したくないが、相手は噂の耐えないラミナス様で、関わっているのは実の妹だ。

いくら王族といえども、もしもアリスが望まぬことをした時は……。


「確か双子と聞いていたのだが」

「はい。弟のアレクは先程この団長に……」


すると団長は大口を開けて笑った。


アレクはかなしきかな、トーナメント形式であるこの大会での醍醐味そのままに、初期で団長と試合することになってしまったのだ。

団員内でもそれなりの腕だと評判ではあるが、その騎士団の団長に敵うはずもなく。

もうこの控え室から追い出されてしまった一人だった。

ぶつくさと文句ばかりを垂れていたが、またあいつのやる気は上がったのだろうと思う。


「アレクに言っとけ。お前は詰めが甘いってな」

「……そのように」


剣技は俺よりもアレクの方が得意だろうと思っている。

いくら一卵性の双子とはいえ、得て不得手は違う。

似ていてもどこか違う。

実際アレクは団長の言う通り詰めが甘いが、俺は慎重すぎるとよく団長に言われている。

お互い良い部分もあり悪い部分もあるからこそ、補え合えているのだろう。


「君はどことなくアリスに似ているな」


ふとしたラミナス様の言葉に俺は心の中で首をかしげた。

今までアリスと似ていると言われたことはない。

うちの兄弟は性格が多種多様で、衝突ばかりな気がしていたから。

どこが似ているだろうとアリスを思い浮かべてみるが、似ているところといえば物事に慎重なところぐらいか。


「俺と、ですか」

「あぁ。少しだけどね。その表情とか」

「表情……ですか……」


自分はいつも人から無表情だと言われ続けていたが、その自分がアリスと似ているというのだ。

つまり裏を返せば、アリスはいつも無表情でラミナス様に接しているということか?

それはいったい……、何か理由があるのか?


「あの、それは……」

「ん?」

「アリスはいつも無表情と……」


聞きかけて、最後には言葉を濁らせた。

アリスにはアリスなりの考えがあってのことなのかもしれない。

それを自分が突っ込んで聞いてもいいものか、と思ったのも束の間、すでに俺の聞きたいと意図することをラミナス様は悟ったようで、またくすくすと笑った。

アリスの話となると、この人はよく笑う。


「そうだな。彼女は俺の前では無表情か苦い顔ばかりだ。家ではどうなんだい?」

「……どちらかといえば、表情の豊かな方だと思いますが……」


ラミナスは面白そうに「ふぅん」と漏らした。

アリスはラミナス様の前ではにこりともしないのだろうか。

なんとなく、この前のアリスの反応からするに、ラミナス様に良い感情は抱いていない気はしていたが……。

しかしラミナス様はそのことを実に楽しそうに話すものだ。

まず間違いなくアリスは手の上で遊ばれている。


「次は笑顔が見たいな」

「…………」


でも分からない。

ラミナス様の真意がどうも掴めない。

この人はアリスを面白がっているだけなのだと思っていた。

でもそれだけじゃない気がするのは、なぜなのだろう?

このまま見守るのもいいのかもしれない。

そんな風に思うのは、この人の日頃の噂上よくないのだろうが、そのように思えた。


「次の試合、君とだね」

「えぇ。よろしくお願いいたします」

「言うまでもないが、手加減なんかしなくていいからね。今回はありのままの君に勝つ必要があるんだ」


それがアリスに関係があるんだとしたら、アレクではないが面白い展開にはなっているようだ。

そうでなくても、手加減なんかするわけがない。

そんなの相手に失礼だ。


「もちろんです。正々堂々お願いいたします」



大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

今回は双子のお兄さんのアラク兄さん視点でお送りしました。

なんでこのチョイスなんでしょうね。

なんとなく中途半端な人の視点って、書いてて面白かったりもするんですけどね。

すみません。


とにかく!

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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