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6.皇子の決断に侍女は戸惑ってしまいました

騎士団団長のルイセアス様は、ラミナス様と長い付き合いになるそうだ。

ルイセアス様は王家と釣り合うだけの家柄の出のため、ラミナス様とは小さな頃から遊び仲間として吊るんでいたのかもしれない。

現にラミナス様を呼び捨てで呼べるのは、王家の人間以外にはルイセアス様しかいないんじゃないだろうか。


「だからな、どーしてもお前に参加して欲しいんだ」


机に手を付き、ルイセアス様は前屈みになってラミナス様を見つめた。

代わってラミナス様は椅子にふんぞり返るようにして、ルイセアス様と距離を取ろうとしている。

そのお顔は不機嫌そうに歪められていた。

私はというと相変わらず職務室で紅茶を淹れながら、その様子を横目に眺めていた。

今日はローズヒップだ。


「断る。何度も言ってるだろ?怪我なんかしたら仕事どころじゃなくなる」

「てのは建前で、ただ面倒なだけなんだろ?」

「そこまで分かってるなら誘うだけ無駄だと気付いて欲しいな」


冷たくあしらわれているルイセアス様だが、怯まずに、というよりも気にした様子もなく、また言い募る。

なぜだかルイセアス様の顔は困惑というよりも、むしろなんだか楽しそうである。


「お前が参加すると、アイツらすっげぇやる気でるんだよ」

「なんだ、それ。俺を負かしたい奴らばっかりってことか?」

「そうだろうな」

「………」


ルイセアス様の言葉に心の中で納得の声をあげた。

毎年秋、騎士団が創設された記念に剣術のみによる武道大会が行われている。

騎士団に所属している人はもちろん、騎士団に仕官したい人もこの武道大会には参加することができる。

騎士団でない人の場合は予選会を勝ち抜いた人しか参加はできないが、この大会で良い成績を納めれば騎士団に入団することも可能とあっては、市井の人らは沸き立つものだ。

騎士団なんか華やかさの象徴みたいなもので、剣術をやる人であれば入団することは夢のような目標だろう。

皇子の参加は過去にも例はある。

しかしそれは強者と噂されていた皇子の場合であって、ラミナス様が剣術に長けているとは噂にも聞いたことがない。

それなのに騎士団に混ざって武道大会に参加するのは、ボコボコにされに行くようなものではなかろうか。

それはそれで見たい気もするけれど。

これだけ美しくてこの性格であれば騎士団の男性方には反感を抱く者も多いだろう。

もちろん女性関係で。


「ローズヒップでございます」


白い金のラインが入ったティーカップをとりあえず二人分用意し、ラミナス様の机に置く。

ついでに同じくセットのお皿に盛り付けた色とりどりのマカロンを、そのティーカップの真ん中に置いた。

うん、見栄えはバッチリだ。


「ありがとう、アリス。でもルイの分はいらなかったな。もう帰るようだから」

「話は終わってねぇぞ」

「俺は参加しない。はい、おわり」

「アマリリス・カルノリアが見ていてもか?」


は?

ルイセアス様を見上げると、私を見下ろして白い歯を見せながらニッと笑った。

アレク兄さんのイタズラ前の笑顔に似ていると感じたのは、気のせいだろうか……。

ルイセアス様から少し身を引き、視線を感じてラミナス様を見ると、熱い眼差しとぶつかった。


「な、なんでしょう……?」


堪えきれなくなって先に口を開くと、ラミナス様は顎に手をやった。

相変わらず視線は私を捕らえて離さない。

どうしてだか私から目を離すこともできなくて、私は戸惑いながらラミナス様の視線を受け止めた。


「兄二人が騎士……」

「はい?」

「なるほど、悪くない」

「は?」


さっきまであれ程不機嫌顔を拝ませてくれたにも関わらず、次の瞬間にはこの有り様だ。

ラミナス様はルイセアス様を見やり、口の端を持ち上げた。


「決まりだな」


ルイセアス様は満足そうに笑顔を見せた。

そして次には私を見て、その大きな黒い手でわしゃわしゃと小さい子供の頭を撫でるように撫でくり回した。

その力強さに体が前後左右に揺さぶられる。


「きゃあ!?」

「さすがカルノリア家の女だ!ラミナスも動かす偉大な女だぜ!」


男兄弟の中で育ったとはいえ、こんな撫でられ方をしたのは初めてだ。

ぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で整えながら、自然とルイセアス様を睨み付ける。

しかし気にした様子を露とも見せずに「今度練習付き合ってやるからな」と捨て台詞のように言ってから、ルイセアス様は嵐のように部屋から退室した。

もうなんなんだ、あの人は……。

溜め息を一つ落としたところで、ラミナス様が真面目な顔で私を見つめていることに気付いた。

また変なことを言い出すんじゃないかと、自然と見つめ返す目も細くなる。


「アリスはルイみたいなのが好みなのか?」

「……何をどう見ていたらそうなるのか分かりません」


どう見たら私がルイセアス様が好みそうに見えるんだ。

ラミナス様は「そうだよな」と独り言のように呟いた。


「アリスがルイのこと好きって言ったら、どうしてくれようかと思っちゃってさ」


物騒だ。

それ以上聞くと心臓に悪そうなので、あえて聞かなかったことにする。

ヴァンパイアは皆このように物騒なのか、それともラミナス様の性格なのか、それを判断するだけの情報が私にはない。

まだ何も知らないのだ、この皇子のことを。


「もちろん応援してくれるだろう?」

「まぁ、兄たちと同じようには……」

「同じぐらいじゃ物足りないんだけど、最初はそんなもんでもいいか」


そんなに応援して欲しいのならば、命令すればいい。

そうしないのはこの人なりの意地なのか、そうしなくても応援してくれるだろうという自信なのか。

私はラミナス様という人がわからない。

私みたいにラミナス様に黄色い声を上げない人間が珍しいのは分かるが、そんな人探せば本当はいくらでもいると思う。

しかしそんな人を近くに置いて、いったい何が楽しいのか、甚だ疑問だ。


「アリス?」

「え、あ、すみません。何かおっしゃりましたか?」


普通には失礼に当たる行いだが、ラミナス様は不思議そうに私の顔を覗き込んだ。

すっかり自分の心の声から抜け出した私の顔を見て、ラミナス様は気を取り直したように笑顔になる。

あぁ、やはり心臓に悪い。


「俺が優勝したご褒美」

「ご、ご褒美?」

「そう。だってそんなのがないと、騎士たちの中で勝ち進むなんて難しいだろう?」

「はぁ……、まぁ……」


その前にそれを本業とする騎士たち相手に優勝しようとしているとこが、すでに無謀だと思う。

さすがの私も皇子に向かってそこまでは言えないが。

なんとなく流される形で返事をすると、ラミナス様は満面の笑みを私に向けた。


「俺が優勝したらアリスの血を飲ませて」

「はぁ!?」

「いいだろ?」

「いいわけないじゃないですかっ!」

「ダメなの?」

「当たり前です!」


ダメか……、と真剣に呟くラミナス様を荒い息を吐き出しながら睨んだ。

何考えてるんだ、ルイセアス様以上に……。

ダメに決まってるだろうが!

そう易々と血なんかあげられるわけがない!


「みんな自分から差し出してくるんだけどな」

「それを普通だと思わないでください!」

「まぁ、アリスがそう言うなら仕方ないな。なら、次のパーティーでダンス一回」

「だ、ダンス、ですか……?」


また随分とハードルが下がったものだ。

思わず目をパチクリさせてラミナス様を見下ろすと、にっこりと微笑まれた。

きゅっと音をたてて胸がしめつけられる。

そのせいなのか、ダンスくらいなら別にいいか、という気がしてしまう。

これを流されてるって言うのだろうか?

こんなの、私らしくない。

私らしく……。

私らしくってなに?

イケメンに揺るがない心が私らしいってことなの?


「ねぇ、アリス」

「は、はい」

「俺は面白おかしく君を落とすなんて、簡単な気持ちで言った訳じゃない」

「………」

「それを信じて貰うために、今回は本気で頑張るから。アリスのお兄さんとも戦うことになると思うけど、容赦しないからね」


胸が苦しくて、右手で胸元を握り締めた。

それはラミナス様の言葉を信じようとしているようで、すぐにその手を離した。


命令すればいい。

そうしたら誰だって私だって言うことを聞くんだから。

そう思う自分が、本当は一番そうして欲しくないと願っていた。


武道大会編とでも言いましょうか。

どんどんさくさく進めていきたいと思います。


ラミナス様頑張ってか、アリス頑張ってか、どちらを応援しましょうか☆


お読みいただき、ありがとうございました。


一部漢字を手直しさせていただきました。

お見苦しいところ、申し訳ありませんでした。

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