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4.紅茶をお淹れいたします

ヴァンパイアといっても、実際は人間とそう変わりはない。

ラミナス様が国王に即位すればヴァンパイアの13代目の王様になる。

その間にヴァンパイア皇子は夜型から朝型の生活へと切り替えることに成功しているし、少量の血液さえ接種すれば、太陽の光だって怖くはない。

まだヴァンパイアと人間が共に生活していない時代、ヴァンパイアは魔族と呼ばれていたらしい。

その時は太陽の光を閉ざし、寂れた暗い城で、少しの従者とヴァンパイアは暮らしていたらしい。

それがなぜヴァンパイアが王様となる国が出来上がったのか、私や一般の貴族や平民は知らないが、ヴァンパイア王のおかげでこの国は豊かで平和な国であることは確かだ。

とにかく私が言いたいのは、ヴァンパイア皇子も蓋を開ければただの人と変わらないのだ。


現在ラミナス様付きの侍女は、私以外に二人いる。

その二人はザスティン様の言葉通り、60代の足腰が弱り始めた頃の地方の貴族の方だった。

二人は口々に「やっと楽になるわぁ」「もう隠居しても大丈夫ね」などと言っていたが、すでに休みがちなとこを見ると、どうやら本気で引退を考えているらしい。

つまり、いつの間にかラミナス様付きの侍女は私一人のようなものになっていたのだ。

まだ働き初めて3日しか経っていないというのに。


ガタンという音と共に、ラミナス様の私室の扉が開いた。

先ほどまで会議が行われていたということで、ラミナス様は手に書類の束を持ち、私室へとご帰宅された。

この時間に私室に帰ってくるなどありえない。

職務室があるだろう、職務室が。

私はベッドサイドの散らばった本を片付けていたところで、突然の主の帰室に驚きつつも、しっかりと腰を折って礼をした。


「お帰りなさいませ、ラミナス様」


ラミナス様は真っ直ぐに部屋のソファーに向かい、持っていた書類と共にどさりと音をたてて座った。

優雅に足を組み、その状態で私を見据える。


「茶を用意してくれないか?そうだな……、今日はベルガモットティーがいいな」


突然帰ってきたと思えば、次の瞬間にはこんなことを言う。

何を考えているのかさっぱり分からない。

私の仕事の邪魔をして、私に嫌われたいのだろうか?

そうする理由が思い付かないが……。

また何故だかニコニコと笑顔で言ってくるものだから、侍女としては文句も言えないので素直に従う他ない。

これぞ笑顔の無駄使いだと思う。


「承知しました」


と、私がラミナス様の私室を出て戻ってくる間、約10分。

ほんの少しの時間かと思いきや、皆さんに想像していただきたい。

朝の急いでいる時の10分がどれだけ大切か、人生に一度は誰もが必ず経験して理解していると思う。

ラミナス様付きの侍女はそれに近い感覚が毎日だと考えていただければ、恐らく分かりやすい。

言い訳ではないが、侍女はほぼ私一人なのだ。

朝の身支度も、朝食の準備も、朝食後のティータイムも、私室の部屋の掃除も……。

言い出したりきりがない。

17歳にして、自分よりも年上の子供を持ったといえば主婦には理解していただけるだろう。

いや、あんな態度がでかくて、計算高い人の世話なんかと比べれば子供の方が何倍もマシだ。

しかしその10分間に、いったい何があったのか。

私室は藻抜けの殻ではないか。


「ラミナス様より『急な仕事が入った。茶は職務室まで持ってきてくれ』とのことです」

「……そうですか」


先にも述べた通り、ほんの10分の時間も今の私には大切なのだ。

今から職務室へ行って茶を蒸かしていたら、約30分のロス。

あぁ!もう!

キライになりそう!

あの美しい顔も、今は想像するだけで憎らしく感じた。

とりあえず、そのことを伝えてくれた部屋門番の男性(少し憐れんでいるように見える)に礼を述べ、足早にラミナス様の職務室へと向かった。

これでいなかったら、本気で怒ってやる。


果たしてラミナス様は、優雅にそこにいらっしゃった。

私が職務室に入るなり「悪かったね」と満面の笑みを携えて言った。

そんな笑顔で私を誤魔化せるとお思いなの?

私はカルノリア家の長女なんですからね。


「ラミナスの新しい侍女か」


最悪なことに、ラミナス様の職務室にはラミナス様一人ではなかった。

こちらもかなり有名な方だ。

騎士団団長、ルイセアス。

剣の実力も去ることながら、人望も厚く、軍配能力も抜きん出ているとか。

二人の兄が騎士団所属であるため、そこから騎士団の噂はそれとなく私の耳にも届いていた。

ただそれだけでなく、ラミナス様同様、女遊びが激しいということでも有名だ。

騎士団というだけで女性方から注目の的であるのに、さらにこの大きな身体とそれに見合ったサバけた性格が彼を引き立たせている。

実際こうして並んでいるのだから、類は友を呼ぶということか。

ラミナス様に続いて、関わりたくない人第二位に位置付けられていたのに。


「アマリリス・カルノリアと申します」


しかし挨拶をしないわけにもいかないのだ、当たり前だけども。

私が名乗ると、ルイセアス様は「カルノリア?」と目をパチパチさせた。

ソファーに向かい合うように座っていたラミナス様が、そんなルイセアス様を不思議そうに見つめる。


「知ってるのか?」

「団員にカルノリア家の男が二人いるからな。結構腕も立つし、顔立ちもいいし。確かに妹がいるって話も、そいつらから聞いた」


顔立ちがいいのは必要な情報なのか?

密かにルイセアス様を睨んでいると、ふとラミナス様がこちらを見ていることに気が付いた。

まじまじ見ているような、少し伺っているような……。

戸惑って見つめ返していると、ラミナス様はその表情のまま口を開いた。


「兄たちが騎士、ねぇ」


それがなんだと言うのだ。


「あともう一人兄がいただろ?えぇと……」

「……メルダ・カルノリアのことでしょうか」

「そうだそうだ。確か官吏職だよな」


また余計なことを……。

私の兄弟構成を、なぜ今この場で紹介しなければならないの!


「メルダ?」

「あぁ、ラミナスは会ったことぐらいあるんじゃないか?ザスティンの補佐官やってる奴なんだし」

「やっぱりあのメルダの妹ってことか。ふぅーん、メルダのねぇ」


だからなんなの!

顔も性格も似ていないのは重々承知している。

だから不思議そうに私を見つめる目線にも、残酷だが慣れてしまってはいる。

だからって、そんなあからさまにじろじろ見なくたっていいじゃない?


「どうりで肝が据わってると思ったんだ」

「は?」


思わずすっとんきょうな声を出してしまい、はっと口を押さえる。

その私の反応になのか、ただその現実が面白かったのか、ラミナス様はニヤリと口の端を持ち上げた。

私はもうよく分かっている。

この顔をした後のラミナス様の言葉は、私にとっては何も嬉しくないことを言うのだということを。


「俺は君を落とすことに決めた、アマリリス」


ルイセアス様はきょとんとした後、腹を抱えて盛大に笑った。

私はラミナス様の挑戦的な深紅の目を受けとめながら、ドキドキするどころかうんざりしていた。

どこの流れでその結論に至ったのか、まずその頭を覗いてみたい。


せっかく持ってきたベルガモットティーは完全に冷めきってしまい、新たに淹れてくるしかなくて、ロスタイムは一時間にまで延びてしまったのだった。


今回もお読みいただき、ありがとうございました。

淡々とルイセアス様が登場しています。

今後いろいろと動いてくれると嬉しいんですけどねぇ……。


次回は二番目、三番目の兄が登場します。

どんどん新しいキャラクターが出てしまって申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。


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